Series『現桜』
□The 34th.「掌中之珠(2)」
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二人は山南の家に帰ってきていた。
『し、心臓が飛び出しそうだ・・・』
山南は、そのママ寝室へ行こうとしたのだが、流石に走り回って(更に暴れて)汗をかいたので、シャワーを浴びさせて貰った。
変えの服は、山南のシャツを借りて・・・今、山南がシャワーを浴びているので、それをリビングで待っているのだが・・・
「ひゃっ!」
扉が開く音で驚きの声を上げてしまった。
山南は苦笑しつつ、桜華に声をかける。
「お待たせしました。」
「い、ぃぃえ・・・」
「おや、まだ髪が濡れてますね。」
そう言って、山南はリビングから出ると、すぐに戻ってきた。
手にはドライヤーとブラシ、タオルを持って。
「さ、あちらを向いてください。」
山南は桜華の隣に座り、反対の方を向くように指示をする。
桜華は素直に向きを変えると、まだ濡れている髪をタオルで優しく拭きだした。
「流石に、この季節で濡れたままでは風邪を引きますよ。」
「は、はい・・・」
ある程度、タオルで拭き取った後、ドライヤーを丁寧にかけだす。
ドライヤーの音は煩いが、山南の優しい手つきが気持ちよく、桜華の表情が少しリラックスしてきた。
暫くしてドライヤーの音が止み、沈黙が此の場を支配する。
コトリと音の方向を見ると、山南がドライヤーとブラシをテーブルの上に置いた音だった。
だが、山南の髪を触る動きは止まらない。
優しく髪を梳くように桜華の頭を撫でている。
桜華は、取敢えず声をかけられるまで、じっと同じ方向を向いて待っていた。
暫くして手が止まり、肩に手を掛けたかと思うと、桜華は引き寄せられた。
「うわ。」
バランスを崩し、山南に体重を預ける。
「緊張してますか?」
「は、はい・・・」
片手で桜華の体を支えながら、空いた手で顔を上げさせる。
桜華の赤く染まった頬から、自分の手に熱が伝わってきた。
「やはり、やめますか?」
「大丈夫です。」
「本当に?」
「はい、っていうか何度も聞かないで・・・
恥ずかしい・・・」
「不安なのですよ。」
「え?」
自分の言葉に対し、顔を真っ赤にさせたままの桜華が真っ直ぐな視線を返すものだから、少し気恥ずかしくなり山南は誤魔化す為に、表情が見えないよう抱き込んだ。
「本当に貴女に触れていいのか・・・
今になってもまだ迷っているのです。」
「先生・・・」
「私の様な者が貴女を抱いていいのか・・・」
「それは私も。
先生には・・・さっき一緒に居た女の人のような方が・・・」
「気にしてますか?」
「少し・・・」
少しの沈黙の後、山南は恐る恐る口を開く。
「言い訳するつもりはありませんが、聞いてください。」
「・・・」
「彼女とは何もありません。
貴女に余計な思いをさせたくなくて、敢て黙っていました。
ですが、その事で貴方を哀しませてしまった・・・」
「もう大丈夫。
先生を信じてます。
それに・・・」
桜華は、そっと山南の背に手を廻す。
「私が、こうして居たいのは先生だけ。」
その一言で山南は自分の頬が一瞬、熱くなるのを感じた。
自分の頬も彼女の様に紅く染まっているのではないか?・・・そんな事を思うと、ますます顔を見られたくなくて、腕の力が入ってしまう。
「せ、先生・・・苦しい・・・」
「あぁ・・・すいません。」
少し力は緩めるが、顔を上げさせようとはしない。
「桜華・・・。」
「はい?」
「そろそろ寝ましょうか?」
山南が問いかけると、腕の中に居る桜華が頷いた。
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