お題

□鼓動
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【幸村夢】


窓の外を見ると真っ暗だった。
時計を見れば、針は7時半を指していた。
いつの間にかこんな時間になってしまっている。


私は目の前にある本を閉じ、盛大な溜め息を漏らした。首を回すとコキコキと骨がなった。

「いたた…」

扉が開く音がした。

「まだ残ってたのかい?」
「幸村、帰ったんじゃなかったの?」

そう聞くと幸村はにっこり微笑んで、自主練をしていたから、と言った。
私はそう、と答えて椅子から立ち上がり、背伸びをした。幸村は扉を閉めて自分のロッカーを開いた。

「身体の調子は?」
「うん、だいぶ良いよ」
「よかった」
「心配してくれてたの?」

顔だけこちらに向けて、微笑む幸村。
顔に熱が集まるのを感じた。

「そりゃ…、心配するよ…」

恥ずかしくてつい顔を背けてしまった。
背中で幸村がクスクス笑っている。

「照れたの?」
「違います」
「本当に?耳まで真っ赤だけど?」
「っ!ちょっ…!」

いきなり後ろから抱き締められた。
私はますます恥ずかしくなり、幸村の腕を解こうともがく。

「あんまり暴れないで」
「じゃあ離してよっ」
「彼氏に向かってひどいなぁ」
「幸村っ…、誰か来たら…」
「んー、あったかい」
「無視すんなよっ」
「…なんか久しぶり」
「え?」
「こうやって君を抱きしめるの…」


確かに、こうやって幸村に抱き締めてもらうのは久しぶりだ。
私は抵抗を止めて、幸村に身体を預けた。
幸村は素直で宜しい、と呟くと、さっきより強く私を抱き締めた。



とくん、



あ…。



とくん、



幸村の鼓動が、聞こえた。
背中から伝わってくる。確かに聞こえる。嗚呼、生きている。

そう思ったら何だか胸がいっぱいになった。


「せいいち…、」


名前を呼んでみた。

「…なぁに?」

優しい声で答えてくれる。

こんな当たり前の事が嬉しい。
幸村が生きているという事が嬉しい。
最近まで当たり前じゃなかったから、嬉しいのかな。

「…好き……」
「うん、俺もだよ」
「これからは、ちゃんと私の傍にいて」

幸村の胸の鼓動が早くなった気がした。


「…約束するよ」


幸村は私の身体を反転させて、口付けをした。



鼓動


生きていてくれてありがとう。
 

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