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□あの頃の僕ら
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緋音


水がちょろちょろと竹の筒の中に流れる音、涼しげな音だ。

数秒立つと筒の水が溜まり逆さになって筒の水がすべて、
その下にある岩でできた受け皿のような形をしたソレにすべり落ちていく。

すると筒は軽くなってもとの体勢に戻る、その時の音が緋音は好きだった。

かこん、と。

高くも低くも無く、耳に心地の良い音を自室で聞きながら机に向かっていた。

僧都、という和風庭園なんかによくあるアレだ、ししおどしと呼ぶ者も居る

“ちょろちょろちょろ”と水の音が続いて一定間隔で“かこん”となる。

いつだったか、屋敷に昔から居る熊のような男が、
僧都を庭に面した廊下で作っていて自分は横から一日中眺めていた。

その熊のような男は屋敷の庭を管理していたが、ちょうど一年前に堀の中に入ったきりである。

何をして入ったのかと、問うのは愚問だ。
あの虫も殺せないような優しい男の事だ。

どうせ幹部の罪を被って、あの豚箱(刑務所)に入ったに違いない…と誰かが言っていたのを聞いた。

その男に手紙を書くと

“わざわざ忙しいでしょうにガテ(手紙)をありがとうございます、
お元気ですか。学校は楽しいですか。組のほうは変わりないですか―”

と返事が来た。

物腰の低い男である、組というのは自分のいるこの屋敷に住む住人たちの事をさしている。

組、なのだ。怖がられる、そういう人達。

自分の祖父が組長だ。

屋敷の中には色々な人が出入りする、
もっとも別の場所の事務所の方が出入りする人の数も多く仕事はもっぱらそっちでして居るのだが。

屋敷に来る人はよっぽどの人か行事の挨拶をしにくる者だ、
自分は孫として住んでいるわけだが。

生まれてからずっと住んでるこの家だが、
昔一度だけ出て行こうとしたことがある、小学六年の頃だったと思う。

丁度その時だ、涼にあったのは――。
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