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□人魚姫の国
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カラコが服のすそを引っぱった。反応して振り返ると、彼女は安心させるように微笑んだ。

カラコは立ち上がり、自分をかばっていたクロの手をそっと握った。そしてクロに代わって住人たちの前に立ちはだかった。

「何してるんだ! やめろ、ケガするぞ」

「クロさんだけをケガさせるわけにはいきません」

これまでにないほど穏やかに微笑するカラコにも、いくつか小石がぶつかった。それは血が出るほど勢いのあるもので、痛みに笑顔がほんの少し崩れた。

クロが抑えこもうとするのも聞かないで、カラコは住人たちの方を向いた。

「やめてください。私たちは『はじまりの地』から来ました。あなたたちに害を与えようとは、少しも思っていません」

たいして大きくもない声だったが、その言葉によって攻撃の一切が止んだ。

目を見張るクロを置いて、住人が口を開く。

「ウソは通用しない」

「ウソではありません」

ぱきっとした声で答えたカラコの言葉には説得力があったようだ。住人たちがざわざわと騒ぎ始める。

その中で、仕切り屋のような雰囲気をまとった壮年の男性が1歩前へ踏み出してきた。

「確かにその言葉をただの保身では使えないだろう。あそこから来た人間ならば歓迎されるべきだ。だがあそこの人間が全員善き人間とは限らない。それを私たちは知っているんだ。あんたは赤毛だし、おまけに悪魔のような奴と一緒にいる」

カラコは微動だにせず男性の言葉を聞いていた。血が伝って、地面へ雫を落とす。

「だからあんたの言葉に免じて、これ以上攻撃はしない。その代わりに出てってくれ。今すぐに」

男性は言葉を結び、アーチを指さした。

カラコはクロと手を繋いだまま歩きだした。海を2つに割るように、人だかりが道を開けていく。

そのまま2人は一言も発せずにその国を後にした。
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