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□人魚姫の国
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村からずっとずっと西へ歩いて行くと、次第に海が見えてきた。
海を見るのが初めてだったカラコは、目を輝かせていた。顔をそむけて海を見ないようにしているクロとは対照的だ。
「クロさん、海はお嫌いですか?」
「ああ、大嫌いだ。生まれた時、真っ先に目についたものだからな」
「なんと、こちらのお生まれでしたか」
「あー、まあ、そうだな」
クロは意味ありげにカラコを見遣ったが、当の本人はにこにこしているだけだった。
内心ほっとしていたクロに、衝撃の言葉が投げかけられる。
「クロさんのお家はこの近くなんですね。見てみたいです」
「だっ、ダメだ!」
もちろんカラコはきょとんとしている。
「ダメ、ですか?」
「ダメ、だ」
下唇を噛んでしょぼんとしたカラコに罪悪感が募るものの、こればかりはどうしようもない。
すでにいつもの少年の姿になっていたクロは、とっさに海を指さした。
「見ろ。海沿いにでかい国があったはずだ」
言いながら指をすーっと動かしていけば、遠くに見える国にぶち当たった。
「今度は俺もお前の弟の容姿を知ったんだ。4つの目で探せば見つかる可能性も大きくなるだろ」
案の定カラコはすっかり気分を変えて笑顔になった。
「私は、クロさんと出会えて、本当に幸せ者ですね」
「お、おう。そうだろ。常に感謝しろよ」
急に鼓動を大きくした心臓の理由を、クロはわからないままでいた。
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