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□美女と野獣の城
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「――花が、枯れるんですか?」

ビューティは冷静にうなずいた。ティーカップをテーブルへ戻し、立ち上がる。

「ええ。ひと晩で、バラは咲くことなく枯れてしまうんです」

「王女さま……」

カラコはビューティの元へ近づいた。同情のようなものを感じたのかもしれない。

「やめてください。先にも言いましたが、この城で私のことを王女と呼ぶ人はいません。どうかビューティとお呼びください」

ビューティがにこりと微笑んだので、カラコもそれに応えた。

「では、ビューティさん。枯れてしまう原因はなんなのでしょうか」

「原因は……私なのです」

カラコは数秒間、じっと考えた。

「すみません。どういうことでしょうか」

やがて諦めた彼女は、ビューティへ遠慮がちに尋ねた。

しかし返事はなかった。ビューティは黙ったまま、部屋の窓際に近づいていく。

「バラは、ロドウィックにとって大切な意味を持つ花です。彼は私に会う前からバラを大事にしていました」

カラコはテーブルに置かれた紅茶へ目を落とした。赤みがかった茶色の液体が、静かに波打っている。

「それを台無しにしてしまう私は、この城にいないほうがいいのかもしれませんね」

「そんなことありません」

思わずカラコは口ごたえしていた。面と向かって他人の言葉を否定するのは、カラコにとって珍しかった。

ビューティの隣へ行こうと、カラコは窓に近寄った。

窓からは庭が見えた。だがあまり人がいないところを見ると、庭の端のほうらしい。

「いなくていいなんて、言わないでください。私はビューティさんとロドウィックさんのことをよく知りませんが、お2人が互いに想いあっているのはわかります」

ビューティは疲れた顔でカラコを見た。

「私と弟も、互いに愛していました。弟がいなくなってよかったなんて、私は思いません。だからきっと、ロドウィックさんも思いません」

なぜかカラコの心臓は大きく音を立てていた。確かにカラコは頑固で意志が強いものの、こんな風に自らの考えを口に出すのは滅多にしないことだった。

緊張で顔を赤くしながらビューティを見遣ると、彼女はカラコをぎゅっと抱きしめた。数秒してから、解放される。

ビューティとカラコはしばらく何も言わずに、窓の外を眺めていた。

外の庭に、女性の石像が2体立っていた。
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