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□美女と野獣の城
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ロドウィック王子は近くにいた女性へ声をかけ、カラコをビューティの元まで案内するよう指示した。
クロはその場に残り、バラを植える作業を手伝うことにした。
土は何度も掘り返されているのか、柔らかくスコップを飲み込んだ。
「……君たちは、どうして旅をしているんですか?」
ロドウィックは作業の傍、クロに声をかけてきた。
「言っただろ。あいつの弟を探しているんだ」
「あ、いえ。そうではなくて」
手を一旦止めて、ロドウィックは言いづらそうに口ごもった。
「なぜ、一緒に旅を?」
クロも手を止めた。
「変か?」
青年はくすりとした。
「変です。ヘビとカエルが結婚するくらい、変です」
クロは一方的に緊迫した雰囲気を身にまとった。なんとなく、ロドウィックは普通の人間と違う気がしたのだ。
「それは、どういう――」
「だから人間の格好をしているんじゃないですか?」
しばらくクロは答えなかった。
「気づいてたのか」
「はい。僕、ちょっと魔法にかけられたことがあるんですけど、それ以来なんとなくわかるようになったんです」
「ちょっと魔法にかけられたって、軽く言うことじゃないだろ」
青年は快活に笑った。彼にとっては軽いことらしい。
「まあ、確かにビューティがいなければ僕はいまでも魔法にかけられたままでしたから、それは困りますけど」
少し意地悪してやりたくなった。クロはスコップの先で地面をつついた。
「美女と野獣じゃ、ヘビとカエルくらいおかしな組み合わせだもんな」
思惑通り、ロドウィックはぴくりとした。
「ご存知でしたか」
「噂だけな。呪われた北の城って、ここのことだろ。まさか呪いが解けているとは思わなかったけどな」
「それなら無理もありません。僕がこの姿に戻ったのは少し前のことですから」
ふうん、とクロは声をもらした。ロドウィックがにこにことクロを見ている。
「お前は、俺が人間じゃないとわかってても普通なんだな」
にこにこしたまま、青年は首をかしげた。
「だって僕は、知っていますから。何より大事なのは内面です。君は優しい」
クロは内側から体が熱くなるのを感じた。優しいだなんてこれまで言われたことがない。
「でも俺は、今までこの体のせいで嫌われてきたんだ。お前はたまたま受け入れてくれる人がいたからそう思えるんだろ」
「君にもいるんじゃないですか? 受け入れてくれる人」
「そうか?」
「ええ、きっと」
真面目に話してしまったことを急に恥ずかしく思い、クロは頬を赤くしながら地面を思いきり掘り返した。
「ああっ、ダメです! バラはデリケートなんですから、優しく扱ってください」
「それにしても、こんなに大勢でバラを植えたらすぐ庭がいっぱいになるだろ」
クロの言葉に、ロドウィックは顔を暗くした。
「いいえ。植えても植えても無駄なんです」
「どうしてだ」
「それは――」