box
□美女と野獣の城
1ページ/10ページ
2人は道沿いに北を目指し、まっすぐ進んで行った。
途中、小さな町が見えて寄ってみたが、弟の情報は得られなかった。
だいぶ歩いたところで、2人はやっと城に辿りついた。城下町などはなく、城単体で建っているようである。
アーチには豪華な装飾がほどこしてあり、周りをツタがはっている。その様子は決して朽ちたものではなく、装飾の一環といった印象だった。
門番はいなかった。
無防備な城だな、と思いつつクロたちはアーチをくぐり、中庭へ歩を進めた。
無人だったアーチに反し、中庭にはぎっしりと人がいた。みな地面にひざをつき、土いじりをしている。
「ガーデニングが国家事業なのか? なんだ、この国」
土いじりの邪魔にならないようカラコたちは歩いて行った。誰1人として顔をあげる者はいない。ものすごい集中具合だ。
人をすりぬけ城の中へ入った2人だが、誰もいない。全員、庭へ出払っているのだろうか。
2人はしょうがなく庭へと引き返し、話しかけやすそうな人物を選んだ。
「お、あいつがいいんじゃねえか」
そう言ってクロが指さしたのは、庭の真ん中あたりでせっせと土を掘り返してる青年だった。茶色い髪に、優しそうな瞳。お人好しそうな雰囲気が体全体からにじみでている。
「すみません。お仕事中、ちょっとよろしいですか」
「はい、はい。なんでしょう」
青年は顔もあげぬまま答えた。
「弟を探しているのですが、見ませんでしたか?」
今度、青年は何も答えなかった。
カラコは戸惑いつつも、もう一度同じ質問を繰り返した。
しかし返事はない。
「お前なあ、無視かよ。ひどいぞ」
クロが大声をあげると、青年はびっくりした顔でやっと2人を見た。
「すみません。作業に熱中していました」
青年は言いながら立ち上がり、ズボンについた土をパッパッと払った。
「僕はロドウィック。君たちは旅人ですか?」
「はい。あのう、みなさんで何をしてらっしゃるんですか?」
「ああ、はい。バラを植えているんです」
「バラ?」
青年はにこりとした。
「はい。ビューティを元気づけたくて」
「ビューティ……美人がいるのか?」
クロが尋ねると、青年は声をあげて笑いだした。
「それはもう美人ですよ。この国のプリンセスです」
青年は再びヒザをついて、土いじりを始めた。
「彼女は……あの美しい笑顔を見せてくれなくなりました。それでビューティの好きなバラで庭をいっぱいにしようと思い、みんなに手伝ってもらっているんです」
地面を見つめる青年の顔は、悲しげだった。
カラコは、助けを求めるようにクロを見た。うんざりしながらも、クロはカラコに向かって軽くうなずいた。
「手伝ってやりたいんだな?」
「はい」
「こうしてる間にも弟は遠くに行ってるんだぞ」
「はい」
クロはよっぽど質問を止めようかと思った。カラコの答えは変わらない。ガンコなやつだ。
「それでも手伝うんだな?」
カラコは少し躊躇った後、大きくうなずいた。
「はい」
返事を聞き、クロは大きくため息をついた。それからロドウィックの目線にしゃがみこむ。
「何をしたらいいんだ」
「えっ?」
ロドウィックは目線をあげた。
「手伝ってやる。バラを植えればいいのか?」
そうやって地面を手で掘り返そうとするクロを、ロドウィックは慌てて止めた。
「あっ、ありがとう! でも手でやっちゃダメだ!」
青年は周りにいた1人に声をかけると、スコップを渡してもらっていた。
「はい、どうぞ」
「悪いな」
クロはスコップで地面をいじりだした。思っていたより楽しかったらしく、鼻歌まで歌いだしそうな雰囲気だ。
ややあって、クロは横に立っているカラコに気がついた。手伝うと言っておきながら棒立ちしている彼女を苛立たしげに見つめる。
「何してんだ、お前もやれよ」
「はい。農業は得意です。ですが、今は……私、ビューティさんに会いたいです」
「はあ? 会ってどうするんだ」
「元気づけます」
そこでカラコは初めてしゃがんだ。そしてロドウィックに顔を向けた。
「ロドウィックさん、ビューティさんに会ってもよろしいですか? 私、紅茶を淹れるのが得意なので、ぜひビューティさんに飲んでいただきたいのです」
ぽかんとしたのはクロだった。
「なんでこいつに聞くんだよ」
カラコは意外そうにクロを見た。
「ロドウィックさんが、この国の王子さまではないのですか?」
「はっ?」
急にロドウィックが笑いだしたので、2人は会話を中断した。
「いやあ、僕、自分で言いました? よくわかりましたね」
カラコは二コリとしただけで、わかった理由は話さなかった。
「もちろんどうぞ。ビューティもあなたのようなかわいらしい旅人さんに会えば気が晴れるかもしれない」