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□シンデレラの街
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「おい、カラコ!」
『なんでもないもの』は遥か後ろから歩いてくる女の子に向かって呼びかけた。女の子はあわてて走ってくる。
「なんですか? その、カラコというのは」
聞かれた『なんでもないもの』は、得意満面で答えた。
「お前、『からっぽ』なんだろ? だからカラコだ」
女の子、『なんでもないもの』によれば「カラコ」は、納得したようにうなずいた。
「『なんでもないもの』さんも、お暇なんですねえ」
「俺をバカにしてんのか!」
『なんでもないもの』は憤慨する。しかしカラコはからっぽであるから、なぜ怒るのか理解できない。おろおろするばかりだった。
「『なんでもないもの』さん、あの、私、そんなつもりでは。『なんでもないもの』さんをバカにしてなんかいません。むしろ『なんでもないもの』さんを……」
「あーっ! うるさい! ついでにまどろっこしい!」
『なんでもないもの』は声を張り上げた。いらいらとカラコに説教をはじめる。この『なんでもないもの』にとって、カラコは非常に扱いづらい人物だった。
「でも『なんでもないもの』さんの名前は『なんでもないもの』さんですし」
「なんとでも呼べばいいだろ! あだ名でもなんでも勝手につけろ」
カラコは首を振った。
「私は『からっぽ』ですので、誰かにあだ名をつけるなんてできません」
『なんでもないもの』は早くもカラコと旅に出たことを後悔しはじめていた。しかしこれもそれも『いっぱい』の弟を喰うため、と自分に言いきかせた。
「……そうか、ならクロとでも呼べ」
「クロさんですか? なぜ?」
「俺は全身真っ黒だろ。不必要に『なんでもないもの』だとバレるといろいろやっかいだしな」
クロはどこか自嘲的な色をその声に乗せていた。カラコはその様子にも気づかない。これに関しては、女の子が『からっぽ』で良かったとクロは心から思った。