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□赤ずきんの森
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しばらく進むと、森の様子が変わってきた。木はうっそうと生い茂り、肌寒い空気が腕や足にからみついてくる。小人から貰った地図によればとっくに森を抜けていていい距離を歩いたのに、出口は見当たらなかった。
2人とも口数も少なくなり、もくもくと歩く。早く森を抜けたい。2人の思いは一緒だった。
小屋が目に入ってきたのはそんな時だった。ワラをもつかむ気持ちで、2人は小屋の扉をノックする。誰かが住んでいるなら、道を教えてもらえるかもしれない。
しばらくしてドアから顔をのぞかせたのは、まだ年端もいかない少女だった。白いワンピースに、フード付きの赤いポンチョを身につけている。室内にいたせいか、今はフードを被っておらず、金色の髪が惜しげもなくさらされていた。
少女は2人を招き入れた。森を歩いていたが迷ってしまったこと、東の家に帰りたいということを手短に伝える。少女はとくに興味もなさそうな顔で、2人の話を聞いていた。
話を聞き終えた少女は3人分の紅茶を淹れ、自分のカップに角砂糖を入れた。カラコとクロは手をつけなかった。スプーンで紅茶をかき混ぜながら、少女は口を開いた。
「教えてあげてもいいよ、出口」
「本当ですか!」
カラコが目を輝かせる。
「うん。でも、交換条件ね」
「交換条件、とは?」
クロは黙って2人の会話を聞いていた。なぜか胸がざわつく。交換条件が無謀なものだったらすぐにでも席を蹴るつもりだった。
「この森ね、おおかみさんがいるの。この家を出てまっすぐ進んだ大きな木のあたりにいる。そのおおかみさんに、私の伝言をもっていってちょうだい」
「おおかみって、人喰いじゃないだろうな」
「まさか。やさしいおおかみさんよ」
それでもクロは疑わしそうに少女を見ていたが、カラコがいつものごとく安請け合いしてしまった。
「それで、なんとお伝えすればよいのでしょう?」
「かんたんでいいの。赤ずきんが待っています、それだけ伝えて。それでわかるから」
「わかりました」
意味深な伝言にも一片の疑問をもたず、カラコは立ち上がった。クロもしょうがなくカラコに倣う。
「行きましょうか、クロさん」
「ちょっと待って」
2人がそろって出ていこうとするや、赤ずきんがひきとめた。クロとカラコはきょとんとして振り返る。
「行くのはあなただけでいいの」
そう言ってカラコを指さす。
「そこの男の子は、私と一緒に残ってちょうだい」
「はあ?」
クロは思いきり顔をしかめた。