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□赤ずきんの森
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小人たちはみな明るく陽気で、クロとカラコを心からもてなしてくれた。
さて、二人が目指すのは東だ。森の中を歩いていく。
今朝、カラコは出発の準備をしながら真剣な表情で言った。
「家に帰ろうと思うんです」
「俺は別に構わないけど、弟はいいのか?」
カラコは首を横にふった。否定のサインだ。
「弟を探しに行くんです。昨日、なんとなく、弟は家にいるのかもしれないっていう気がして」
クロは腕を組み、考えこんだ。
「そうか。まあ、入れ違いになってる可能性もあるな」
そういうわけで、2人は小人におおまかな現在地をたずねてみた。慣れない二人にとって、森の中は方向感覚が狂う。
小人たちが教えてくれたところによると、二人はカラコの家から、英語のCを描くように旅をしてきたことがわかった。
「では、このまま東に向かえば私の家に着くはずです」
「そうなのか?」
「はい。私の家は東の果てにあるので、ずっと進んでいけばいつか突き当たると思います」
東はどちらかと問えば、小人たちは親切に地図を渡してくれた。このまま森の中を進まなければならないらしい。
日の光が葉で遮られ、森の中は思っていたよりも快適だった。
「ピクニックみたいですね」
はしゃぐカラコの目は、太陽の光に照らされ活き活きと輝いていた。その笑顔に数秒みとれてから、クロは我に返って目をそむけた。
「お、お前、変わったよな」
「クロさんもそう思いますか」
「も?」
「この前リンゴを食べてから、目の前が開けたと言いますか……変な気分なんです」
こっそりカラコを盗み見れば、今までにないくらい神妙な顔で言葉を選んでいた。しかしそれも一瞬で、ぱっと太陽が照らすように笑顔へ変わった。
「これが、クロさんと同じ世界に住むってことなんでしょうか。私が変わったのはクロさんのおかげですね」
そして唐突にクロの手を握りしめてきた。クロはぎょっとして立ち止まってしまう。
「何もお礼ができないのに、一緒に弟を探してくださってありがとうございます。クロさんは本当に、優しいかたですね」
カラコの笑顔に、胸がちくりと痛んだ。