box

□2
1ページ/8ページ

「お前、弟のことになると人が変わるな」

お城の階段を下りながら、クロはカラコをまじまじ見つめた。

カラコはなんともいえないような表情を作ってみせた。

「弟だけなんです。私を愛してくれたのも、私が愛したのも」

チクリと、クロの胸が痛んだ。

「ふん。下手に愛だなんだやってるから裏切られた時辛いんだろ」

それは誰からも愛されたことがなく、誰も愛したことのなかったクロの精一杯の強がりだった。

どうせカラコは『からっぽ』だ。強がりにも気づかない。

「優しいんですね、クロさん」

「はあ?! バカにしてんだ、バーカバーカ」

どれほど罵ろうが、カラコは笑みを絶やさなかった。

クロはやりづらくなって、階段を駆け足で下っていった。

階段を下りたところで、シンデレラが待っていた。

「お2方、馬車の用意ができました」

「ありがとうございます」

クロのあとを追って慌てて下りて来たカラコが、勢いよく頭を下げる。

シンデレラからの情報によると、カラコの弟はすでにこの町を出たという。その後、確かな足取りはつかめていない。おそらくは東へ向かったんだろうとのことだった。

不確かな情報ではあったが、2人はそれを信じて東へ向かうことにしたのである。

「王さまに会う必要は、なくなってしまいましたね」

カラコがそっとつぶやく。

「いいだろ、あんな王」

クロが小声で返す。

幸い2人の会話はシンデレラに届かなかった。

「東をずっと進めば小さな村が2つあります。とりあえずはそこまでお送りするということでよろしいですか?」

シンデレラは身をかがめ、2人に説明した。しかしカラコは首をひねるばかりだ。

優しい女王さまは、なんとかカラコにわかってもらおうと苦心した。それをクロが遮ってやる。

「ああ、いい。後で俺が説明しておく」

「では、お言葉に甘えて」

シンデレラは微笑んでクロの頭をなでた。全身の毛が逆立った。

「それでは行ってください。どうか弟さんが見つかりますよう」

手をとられたカラコは、馬車へと促される。ところがカラコはその場から動こうとしなかった。

「女王さま」

まっすぐシンデレラを見つめるその目は、ガラス玉のようだった。

「出発する前に、お悩みを聞かせていただけませんか?」

シンデレラの笑顔が、凍りついた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ