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「お前、弟のことになると人が変わるな」
お城の階段を下りながら、クロはカラコをまじまじ見つめた。
カラコはなんともいえないような表情を作ってみせた。
「弟だけなんです。私を愛してくれたのも、私が愛したのも」
チクリと、クロの胸が痛んだ。
「ふん。下手に愛だなんだやってるから裏切られた時辛いんだろ」
それは誰からも愛されたことがなく、誰も愛したことのなかったクロの精一杯の強がりだった。
どうせカラコは『からっぽ』だ。強がりにも気づかない。
「優しいんですね、クロさん」
「はあ?! バカにしてんだ、バーカバーカ」
どれほど罵ろうが、カラコは笑みを絶やさなかった。
クロはやりづらくなって、階段を駆け足で下っていった。
階段を下りたところで、シンデレラが待っていた。
「お2方、馬車の用意ができました」
「ありがとうございます」
クロのあとを追って慌てて下りて来たカラコが、勢いよく頭を下げる。
シンデレラからの情報によると、カラコの弟はすでにこの町を出たという。その後、確かな足取りはつかめていない。おそらくは東へ向かったんだろうとのことだった。
不確かな情報ではあったが、2人はそれを信じて東へ向かうことにしたのである。
「王さまに会う必要は、なくなってしまいましたね」
カラコがそっとつぶやく。
「いいだろ、あんな王」
クロが小声で返す。
幸い2人の会話はシンデレラに届かなかった。
「東をずっと進めば小さな村が2つあります。とりあえずはそこまでお送りするということでよろしいですか?」
シンデレラは身をかがめ、2人に説明した。しかしカラコは首をひねるばかりだ。
優しい女王さまは、なんとかカラコにわかってもらおうと苦心した。それをクロが遮ってやる。
「ああ、いい。後で俺が説明しておく」
「では、お言葉に甘えて」
シンデレラは微笑んでクロの頭をなでた。全身の毛が逆立った。
「それでは行ってください。どうか弟さんが見つかりますよう」
手をとられたカラコは、馬車へと促される。ところがカラコはその場から動こうとしなかった。
「女王さま」
まっすぐシンデレラを見つめるその目は、ガラス玉のようだった。
「出発する前に、お悩みを聞かせていただけませんか?」
シンデレラの笑顔が、凍りついた。