二次創作小説・・・ぽいものへの挑戦

□虹の下の太陽
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「パパ〜ちょっと来てぇ〜」




夕暮れ迫る追手内家の玄関に、鈴をころがす様に響くママの声。



その呼び声が聞こえるや否や、書斎にいた一人の人物が
居眠りから覚醒し駆けつけた。



この家の主たるその人の名はバーコードマ・・・
もとい、追手内止朗。



「おかえり!!ママ!」


笑顔満面で出迎えた彼の目に飛び込んできたのは、
心配顔のママと、その腕の中に抱えられた幼い娘。

そして玄関で倒れ伏している、一人の小柄な青年。






変身魔法少女アニメ「プリティラッキー7」劇場版。






そう描かれたプログラムを手に持ったまま動けなくなっている、
息子洋一の姿だった。








小さな女の子を中心に大人気・・・と言うこのアニメに、
まだ幼い追手内家の長女も大の夢中で。

そんなアニメの映画化が決まってからと言うもの、
まるで小さな太陽の様な明るさではしゃぐ娘の姿を中心に
追手内家はとても賑やかな日々を送っていた。




今日はそんな映画の公開初日。

初めての映画館デビューと言う事もあり、楽しげな家族を横目にただ一人・・・




「信じられない行動だ!!
 パパを、パパを・・・置いて出かけるなんて!」


「仕方がないわ、パパ。だって、締め切り明日朝なんでしょう?」

「仕事より・・・ママ!!!何よりもママ!!」

「妹が見てる。頼むからやめて」


ママにしがみついて玄関でジタバタと名残を惜しむなか、息子に言われ。


いつもと変わらないやりとりをしながら出掛ける家族を見送り
留守番を任されたのは、まだ昼も前の時間。




それがどうしてこうなった・・・
いや、大元の理由は言われなくても分かっているが。

止朗は玄関の土足場で倒れたままの息子を見ながら、愛しいママに話しかけた。



「今日はどうした?」

「洋ちゃん、ひどく疲れちゃったみたいなの」


ママがぽつりと言う。


そんな彼女の昼前と変わらぬ姿と、その腕の中の娘の喜びようを見るに、
二人に何らかの問題が起きた様子はない。


となると。


止朗はやはり洋一だけがまた不運に襲われたのだな、とズボンの上から尻を掻く。




高校生も三年になった息子が映画館に同行して行った理由は、
本人がハッキリ断らなかったから。

そして、可愛い妹に「にいにもみるの〜!」と言われて
困り、頭を掻きつつも照れているのを止朗に目撃され、命令されたからだった。



小さなお友達に埋めつくされた、さぞ賑やかだろう劇場に引っ張って行かれ、
他の父親たちと所在無さげに喫煙コーナーに追いやられる図。

加えて、その中でもたぶん自分が一番歳をとっていると再認識させられる
図を想像した止朗が内心行きたくなかった、と言うのもあるのだが・・・
それは秘密のままで。



「洋ちゃんたらね」、とママが今日の出来事を話し出そうとした所で、
やあ菜が「しーし!」と口癖になっている言葉を玄関に響かせる。



「まあ!やあ菜ちゃん、またおトイレ行きたいの?」


「洋一はわしが見るから、もう部屋に上がった方が良いだろう」



「・・・お願い、パパ。洋ちゃんの事しっかり診てあげてね?」



心配そうに息子を見ながら、娘を連れて家の奥へ入って行く。



「こら洋一。可愛いママを心配させるんじゃない」


玄関の土足場でのびてる洋一にしゃがみ込みながら声をかける。
その手には靴ベラ。

つんつん、としばらく突いていると・・・。



「・・・ボクに・・・ああ言う場所は鬼門だった・・・」

「うむ。パパもそう思ってた」


のろのろ、とやっとの事で顔を上げ・・・
言葉を吐き出した洋一に、相づちをうつ。



「最初は良かった・・・んだよ」

「ほうほう」


「劇場は綺麗だし。席もめちゃくちゃ良い席が空いてて座れたりしてさ?
 ・・・こりゃ今日はついてる君だ!、って思うくらい」

「甘い。甘いぞぉ〜、追手内洋一さん」


父の言葉にたまねぎ髪をしゅんとさせて、洋一は話し始める。


良い席が取れた事に気を良くした彼は、チケットの人に頼んで飲み物等を
買う為、一度ロビーに出して貰ったらしい。
その目的は、妹の大好きなキャラクターの描かれた、劇場限定ポップコーンを買う為。

どの子がピンクでブルーでグンジョー色なのだか、止郎も洋一も知らないが、
やあ菜はピンクが大好きらしい。



「・・・兄としてする事は一つでしょ?
 プリティラッキー7のポップコーン買いに並んで、
 買い終わって横見たら色々売っててさ・・・。

 上映終わってからだと混むから、
 「よし!パンフレットとかも買っとこ!!」
 とか思って、そのまま売店にも行った訳」


「なるへそ」



うつ伏せに倒れていた洋一だったが、片腕に力を込めたかと思うと
ごろり、と仰向けになり。

ついで手を上に向かい広げ、ジェスチャーまでつけ出した。



「・・・またスゴい色々あったんだよ!なんとかスティックとか、
 ラッキーバック?とか言ってさ!
 よく分かんないけど、とりあえず喜びそうな物は
 今のうち買っとこ〜って買いまくったんだ」

「買いまくるのは止めなさい」


息子と家族のために、と開運グッズを買いあさる人が
説得力のない注意をする。



「ところがさ。やっと一通り買えて、
 「ほら!!やあ菜の大好きなプリティラッキー7だよ!」って
 スクリーンの方に戻ったら・・・

 ママとやあ菜がいなかったんだよね」


小さな女の子に大人気のグッズの山に、ポップコーン。
両手いっぱいに抱えた洋一が立ちすくむ姿が止朗の目に浮かんだ。



「なんかコソコソしていた、ボクより年上っぽいお兄さん達が
  「彼こそ真の勇者だな」、とかって・・・遠巻きに
 尊敬の眼差しを向けて来るし。

 やあ菜と変わんない年頃の女の子達とお母さんとかに、

 「見て〜!!あのお兄ちゃんラッキーピンクのスティック持ってる〜!!」
 「ほら!だめよ、頑張って一人で来たお兄ちゃんなんだから、そっとしてあげようね」

  って、温かい眼差しで凄い言われてさぁ・・・」



よほど皆の視線が恥ずかしかったのだろう。「ついてねぇ〜・・・」と
茹で蛸の様に顔を赤くしながら・・・止朗に珍しく訴える声まで弱々しい。



「で、ママ達は何してたんだ?」

「やあ菜をトイレに連れてってたんだって。
 ・・・混んでたらしい、んだ、よね。・・・っと!」


「おっ。自力で靴を脱いだ」

「上映始まって、暗くなってからやっと戻って来たんだよ」


もぞもぞと体を転がし、動かしながら、土足場から這い上がってくる。



「・・・んで、なんとか映画も観終わって
 スタッフロールが流れる辺りになったらね?

 「洋ちゃん。ママちょっと、やあ菜ちゃんをお手洗いに
  連れて行ってくるわね」〜、とかってまたママが席立つんだわ。

 「ボクを一人にしないで!」って頼んだんだけど、

 「洋ちゃんたら甘えんぼさんね。パパみたい」
  とか言っちゃって・・・

 そのまんまボク、置いてけぼり」



まだ倒れながらも身振り手振り、モノマネまで入れて
愚痴る息子の周りに、玄関に備え置いている塩をまく。



「追いかければ良いだろうに」


パンパン、と手を叩き塩を落としながら言う止朗に



「足下にたくさんグッズとか、食べ物の入っていたカゴとか。
 もう凄い量置いちゃってたから・・・。
 ママの荷物もあったしさ。
 ・・・しかも、座席の位置もど真ん中だよ!ど真ん中!」


と呻くように溜め息をつき。



「席取った時はラッキーだ!、と思ったんだけどなぁ。
 やっぱしついてなかった・・・」と洋一は突っ伏したままボヤいた。


明るくなった座席に残されたグッズまみれの青年が、席を立つ人々の
視線の中にまた・・・。
さぞこの長男は、頬を赤く染めて小さくなっていた事だろう。



「パパ、洋ちゃん!」


普段着に着替え、エプロンに身を包んだママが
驚いてトテトテと駆けてくる。

なかなか来ない夫と息子を不思議に思って見に来た様だ。



「洋ちゃんたら、こんな所で眠っちゃダメよ!
 ・・・パパッ!洋ちゃんを診てあげて、ってお願いしたのにっ」


「わし、ちゃんと「見て」いたぞ?」

「パパ!」


珍しく止朗に文句を言うママに、洋一は「平気平気」と手を振って。

えいっ!、と勢いよく起きあがる。



「ちょっと休んだから、もう治ったよ」と
照れたように笑うと一人、妹の名を呼びながらリビングへ歩いてゆく。


「・・・大丈夫かしら、洋ちゃん」


お世辞にも力強いとは言えないその足取り。



「また帰り道、歩道橋の階段から落ちちゃうし
 自動ドアに挟まっちゃっていたし・・・。
 
 そのうえトラックに跳ねられたのに、
 「この位は全然大丈夫。今日は調子良いから!」、なんて言って」


洋ちゃんてば、とママがしょげる。



「お家の傍まで来た所でこんな隕石が飛んできたの。
 それでとうとう倒れちゃったのよ」

「それは洋一・・・言わなかったんだが」



手をいっぱいに広げ伸ばし伝えるママに、さすがにギョッとする。



だが、それでもきっと。



「大丈夫だろ」


あっさり言う止朗に、今度は目前の妻が言葉を失う。



「喋ってる間、洋一笑ってたからな」




リビングに戻ると、すっかり疲労しきった洋一とは逆に
興奮したやあ菜がスティックを手に瞳をキラキラと輝かせ。
同時上映だったらしい、なんとかダンスを踊りながら、
もう片方の手で洋一の手をしっかりと掴み、クルクルと回っていた。



「ラッチュ〜キビィ〜ム!ピンク!ぴょん!」


ステッキを振り回して大はしゃぎしている娘と、
体を小さく屈めながら一緒に遊んでいる息子を見て。



「まあ・・・本当に笑ってる」


ママが呟く声が止朗の耳に届いた。



「今日はとても疲れたはずなのに」



やっと微笑んだママの肩に手を置いた止朗パパは、
追手内家の長男の笑顔と同調するかの様に
「なっ」、と笑った。

























 「虹の下の太陽」(完)
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