二次創作小説・・・ぽいものへの挑戦

□砂糖は三ぶんの一
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「砂糖は三ぶんの一」








歌が聞こえる。






歌詞のない鼻歌だが、伸びやかな声と確かな音程が
その歌声の主の上手さを教えていた。



それだけではない。
なんだろう。この心惹かれる歌声は。


寂しげで、儚げな声色。



深夜の大宇宙神星神殿の廊下で、スーパースターマンは
思わず耳をすまして聴き入り・・・



次の瞬間、「え・・・」と目を見開いた。



しばし呆然としていたスーパースターマンが、
ゆっくりと、誘われるように歩き出す。



鼻歌の聞こえてくる方へ向かって。



「なんでだよ?!」

「こんなトコでどうして・・・」


口から勝手に言葉が滑り落ちていく。


うるさく響く心音と、足音さえ耳に入らない。
聞こえるのはただ・・・この歌声だけ。


自分がいつの間にか走り出している事に気がつかぬまま、
歌の主の元へと。

少しだけ開かれていた大きく立派な扉に、
スーパースターマンは体当たりをする様に飛び込んだ。




「・・・何してんだ?」

「なんだ、スーパースターマンか」


こう言われたなら、ここは「なんだ、とはなんだ!」と返す。
いつもなら。


スーパースターマンが飛び込んでくるなり、驚いて
鼻歌をやめた相手・・・


不似合いに大きな椅子に体を沈めたラッキーマンを前に、
彼は呆然と立ち尽くす。



当たり前と言えば当たり前。


この部屋はラッキーマンこと、大宇宙神の公務室ではないか。


その主たるラッキーマンの手元には、白紙用紙で折られた作り途中の紙飛行機。

こんな真夜中に何をしていたのかは知らないが、
少なくとも仕事をしていたのでは無いらしい。



「今歌ってたか・・・?」

「聞いてたの?!」


沈黙に耐えられずスーパースターマンが問いかけると、
ラッキーマンは「うわ」、と言う顔で眉を下げて。


「なんの歌だったかな・・・?
 メロディと歌詞、切れ切れに浮かぶんだけど」


ラッキーマンの裏表のない困惑顔を無言で見つめながら、
思い至った可能性を乾いた舌の上にのせた。


「みっちゃんに・・・」

「うん??」


きょとん、と目前の相手がこちらを見る。


「・・・みっちゃんにでも教えて貰った歌なんじゃね〜の?たぶん」


「ええ〜」、とラッキーマンは首を傾げる。


「そんなみっちゃんとデートしてる暇、もうずっと無かったよ?

 そんなんじゃ無くて、なんかもっとこう・・・」


腕を組み、唸っているうちに頭が煮えて来たらしい。


天井を仰ぎ「わかんない!」と一声喚くと、
ケロリとした表情でスーパースターマンに向き直った。


「やめた、考えるの」

「お前、神様やっててそれで良いのか?」


漫才を思わせる軽口に、双方の口元と、
スーパースターマンの緊張が緩む。


「なんだってこんな時間に起きてるのさ??トイレ?」

「俺は子供かよ。違う違う、小腹が減って
 歩き回ってただけ」


チチチチ、と人差し指を振って決めポーズをとる。


「大差ないんじゃない、それ」


ラッキーマンは笑って立ち上がり、グシャリと丸めた
紙飛行機をゴミ箱へ放り投げた。


「おやつでも食べようよ。紅茶入れたげるからさ」


仕事をさぼっていたことを口止めしよう、と言う魂胆だろうか。


自ら支度をしにホテホテと歩き出す背には、
「おやつおやつ〜!」と書かれた本心が嬉しそうに弾んでいる。



残されたスーパースターマンは一人居心地が悪そうに広い部屋を見回すと、
ゴミ箱から外れて落ちた紙飛行機だった物を見つけ、拾って投げ捨てた。








「さっきから思ってたんだけど・・・
 なにしてんの?それ?」


ドーナッツを箱からだし、皿に盛っていた
ラッキーマンが不思議そうにスーパースターマンの手元を指さす。


一つの角砂糖を崩さないよう、慎重な手つきで
切れ目を入れながら睨んでいるのだが・・・

どうも、三等分に分けようとしているらしい。


指摘された途端、スーパースターマンは頬を染めた。


「・・・いつものくせが出ちまった。
 ほら、弟と妹といつもこういうモンは分けあうから。

 今、あいつらと離れちまってるのになぁ」


スーパースターマンが笑って答えると、
ラッキーマンは目頭を押さえた。


「たい焼きなんかもさ、一つあったら二日は保つんだぜ!
 最初に三個に分けるだろ?
 それからまたそれを三個に分けて・・・

「良い!!今日は良いから。一つでも二つでも、
 お願いだから何個でも砂糖入れて飲んでよ・・・!」



こいつの事だ。きっと正確に三等分ではなく、
弟妹の方に多く分け与えているのだろう。
目に浮かぶような場面を思い描くと、ラッキーマンは
角砂糖入れをスーパースターマンに押しつける。



「お前何泣きそうな顔してんだ?」

「良いから!頼むからさ・・・」


「変な奴」


んじゃ遠慮なく。
そう言い、手元にあった角砂糖をひとつ、
ポチャンとカップに放り込みかき混ぜる。

スーパースターマンの笑顔を期待する
ラッキーマンの目前で、一口紅茶を飲んで・・・


「甘すぎる。こんなの飲めねぇよ」


顔をしかめカップをそのまま置き、自分から離してしまう。

ええ?!とラッキーマンは自分の方に近づけられた
そのカップに手を伸ばし、同じく一口だけ口に含む。


甘いは甘いが、甘すぎる、と言うにはほど遠い。


「これで甘いなんて」

「こっち貰うからな」


甘さの足りない紅茶に顔をしかめるラッキーマンの前で、
スーパースターマンが砂糖の入っていない紅茶を引き寄せた。

角砂糖を再び切り分ける間、落ちる沈黙。

ザリザリと砂糖を切る小さな音を立てながら、
スーパースターマンはそっと目前の仲間の様子を伺う。



こんな風に、面と向かって二人きりになる事は本当に珍しい事だった。
誰かしらが間にいる事に慣れきってしまって。
話を何と切り出したら良いのか・・・

それすら、どうも掴めない。


自分がここ、大宇宙神星に残った最初の理由さえ
努力マンが帰る様子が無かったから、
なんとなく自分も皆と帰還しなかった、と言うだけだ。


しかしなぜだろう。


努力マンが地球へ戻った時に同行せず、
うやむやに笑い誤魔化して、ここに残ってしまったのは。


我ながら説明の出来ない事をした、とスーパースターマンは今更ながらに思う。



そんなスーパースターマンの心中も知らず、
ラッキーマンはドーナッツをかじると
少しだけ幸せそうに微笑んだ。

・・・その顔を黙って見つめると、切り分け終えた角砂糖の大きい方を
ラッキーマンの紅茶に手を伸ばし、入れる。


胸の内に用意していた問いかけが
行き場を無くし、角砂糖と共に消えてゆく。


残った角砂糖を自分の紅茶の中へ溶かしながら、
スーパースターマンは聞きたくて仕方の無かったはずの疑問を
忘れることにした。


大宇宙神、なんて者になってしまった本当は怖がりなこの仲間に、
彼の喜びそうな笑い話を振ってやる方が、きっと、ずっと良い。

そう考え、ラッキーマンの知らぬ所で起こっていた仲間たちの大小の騒動を話し始める。
案の定身を乗り出してきた相手に気を良くして、
スーパースターマンは話を広げ出した。



寂しげな鼻歌はもう聞こえない。



代わりに、実に楽しげな笑い声がふたつ、
大宇宙神星の一室から朝になるまで響き続けていた。





それはスーパースターマンこと目立たがるが、
おつきマンに半ば追い出されるように
地球行きのロケットに一人押し込まれて帰還させられる、

数ヶ月前、の出来事だった。
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