二次創作小説・・・ぽいものへの挑戦

□Promise
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大宇宙神星で働く自分には、
苦手な相手が二人存在する。


一人は、厳しく妥協無く、自分を鍛える・・・
敬愛しながらも、常に緊張感を求められる先輩。



そして_____



「大宇宙神様!」


背筋を伸ばし、息を吸う。
ここでの仕事に携わるようになって
初めて迎える祝宴の朝。

重々しい造りの扉をノックし、主を呼んだ。



内側からの、のんびりとした返事を確認し
マニュアル通りに入室、一礼。
「失礼します」、と顔を上げたその部屋の一番奥に。

遠く離れた青い星で、「たまねぎ」と
呼ばれているらしい野菜と同じ形。
その少し風変わりな髪を持つ青年の姿を目にして、
大宇宙神お世話係、第二責任者である自分・・・
おそばマンは、扉を開けたままで固まる。



大宇宙神星で働く自分には、
苦手な相手が二人存在する。

そのうちの一人、先輩上司は、式典等で星を留守に出来ぬ
主に変わり、重要任務の為遠くの宇宙まで出張に出、留守。

そして___苦手な人物、もう一人は、透き通ったマントと
漆黒のスーツに身を包み、何やら「ついてね〜」と呟いている
目前の青年だった。







『Promise』







「らっきょを召し上がることを定時になったらお伝えすること。
 あの方は仕事に没頭すればする程、忘れがちになるのだから」


先輩に注意されていた言葉が頭に浮かび、
おそばマンは大宇宙神ラッキーマン・・・
いや、今は追手内洋一の姿をとっている主の元へすっ飛んでゆく。



「大宇宙神様!」

「はいはい」


自分が焦っている理由にもう、気づかれているらしい。
らっきょの入った瓶を手に持ち、少し笑っている。


「今ね、これ飲まなきゃと思ってさ。
 はずみでコーヒーこぼしちゃったんだよ」

「!すぐにタオルをお持ちいたします!」

「ありがと。大丈夫だから、落ち着いて落ち着いて」


言って立ち上がり、コーヒーをこぼした広くしっかりとした
机の上の書類を自ら救出してゆく。

再び公務室に飛び込むと、


「おそばクン、書類は全部無事だったよ!」


「どうしよう、今変身してないのにすげ〜ついてる!」、と
一人書類を抱えて喜んで主が喜んでいた。

「失礼します」と声をかけながら、用意したタオルで
机の上で池を作っているコーヒーを拭きあげる。


「ありがと」


にこっと笑う主に微笑みそうになり、
慌てて一礼。気を引き締めた。




今日は、主が大宇宙神に任命された日であり、
「記念日」とされている日である。

全宇宙で祝日として扱われ、また場所によっては
式典まで開いているのだが・・・。
この大宇宙神星はそのどこよりも静かで、のんびりとしていた。

星の主・・・当の神様が面倒くさがり、
大げさなことを拒む為でもある。

かと言って、祝いの一つも行わない訳にもいかない。


よって、ここ最近の就任祝いパーティはもはや、
客人達のためだけに行われるような物だった。



「もうさ、面倒くさいからこういうパーティーとかやめない?」

「・・・全宇宙の人の前でそれを話されたら叱られてしまいますよ?」


再び席に腰掛けた主に、楽しそうに声をかけられる。


からかって遊ばれていると分かるその口調。
困ったお人だ、と思いながら真面目に返答すると
満足そうに自分を見つめ、笑って書類に目を通し始める。


自分・・・おそばマンは、なぜか主に声をかけて貰える事が多かった。


大宇宙神お世話係第二責任者、という立場もあるが、
それだけでない気軽さを感じ・・・
故に、おそばマンは主が少しばかり苦手だった。


ラッキーマン時の時は、まだ良い。

過去の記録映像で目にしてきた、一連の活躍。

子供心に憧れ、世代は違いながらもすっかり見慣れた英雄の姿は、
自分に仕事のやりがいと、喜びを感じさせてくれる。

いささかワガママを言い、周囲を
困らせることも、まあ・・・たまにはあるのだが。

「一番困らせられた頃に比べたら、可愛いものですよ」と
微笑んで言う先輩上司、おつきマンの余裕ある姿と対応に助けられ、
直に困ることはほとんど無い。



・・・問題なのは、この、変身を解かれた際のお姿なのだ。



自分とそうそう変わりなさそうな若々しい姿。
あっけらかんとした、明るい物言い。
目の前で次々に起こす、呆れてしまうしかない
ドジに、おっちょこちょいの数々。

・・・数え上げたらキリがない。


物静かな顔つきの時もあるかと思えば、
「ついてね〜!!」とおおげさなリアクションをしてみたり。

思わず吹き出しそうになったり、「大丈夫かこのお人は」と
思った事も、一度や二度ではない。


なのに、お助けすると心底嬉しそうに、
「助かったよ〜!!」と喜ばれる。


ラッキーマン時のお姿の際と変わらない、自分の仕事。
ラッキーマン時のお姿の際と変わらない、主の感謝。


人間のお姿をとられている時の主の言葉は、
どこか深く心に染みて。

同じな様で、なにかが違うのだな、とおそばマンは思っていた。



「コーヒーは今はいいかな。
 そ〜だな〜・・・

 ん〜!オレンジジュースとか一緒に飲まない?」


時に友達のように接してくる距離間に戸惑いながら、
隣接する小部屋で用意をし、棚から出したばかりの磨かれた
透明なグラスに、リクエストされたオレンジジュースを注ぎ入れる。

主のお気に入りの、ガラスの中に押し花を閉じ込めたコースター。
その上に置かれたグラスにジュースを注ぐと、
あっと言う間に花の柄が見えなくなってしまう。

ぼんやりと、この感覚はどこかで知っているな、と考えていると。


「ところで何かあったの?
 予定までまだ、時間あったと思うけど・・・」


ふと顔を上げた主に問われ、
「そうでした!」と慌ててサイドテーブルに乗せていた
書類の一束を差し出す。



「不細工家の著作権?」


不思議そうに首を傾げる主の手元から一枚、
「少し失礼します」、と書類を引き抜く。


「はい。書類によりますと、不細工です代氏の
 書いた楽曲権利の一部を、作曲家死後3世紀の後
 ラッキーマン・・・大宇宙神様の物とするように、
 と書かれております」 


手を伸ばして来る主に、今読み上げた書面を渡す。
無言で読み始めるその傍らに立ち、言葉を待つ。

しばらく、紙をめくる音のみが広い部屋に響き。

その静寂を壊したのは、主の小さな含み笑いだった。


「やっぱな・・・。です代、知ってたんだ」


側で控える私に目をやると、困ったような顔をして笑った。


「・・・ここに書かれてる楽曲ってさ。
 今聴く事って出来るかな」

「!少々お待ち下さい!」


今日は先輩が留守だったが、もし隣にいたら。
「一寸先に何を言われるか、求められるか。
 それを常に想定しておくように」、と
言葉少なにたしなめられた事だろう。

大慌てで執務室から飛び出して行く後ろから、
「走るとまた怒られるよ〜」、笑う声がした。
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