二次創作小説・・・ぽいものへの挑戦
□「ラッキー・ストップ 〜変身禁止〜」 1/3
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人の声なんて、本気を出した雨の音には敵わない。
悲鳴も、逃げろと叫ぶ声さえも。
今朝からずっと太陽を隠したままの灰色の空は
容赦なく雨粒を地に落とし、
雨粒は白く煙る様にコンクリートの道の上をはね返る。
傘もささずに壁にもたれかる洋一の耳には、
その叩きつける様な雨音も、
遠く響く雷鳴の音すら届いていなかった。
ただ、彼は固まったまま、瞳はただ一つを映すのみ。
ギャラリー達の絶望に近い絶句と___。
またも侵略宇宙人に捕まったみっちゃんの悲鳴の中、
血まみれになりながら、なおも立ち上がりつづけるヒーローを。
始まりは、小さな違和感だった。
「ではさらばだ〜!」
「右に同じくさらばだ〜!」
侵略宇宙人を努力とラッキーで成敗、いつもの様に二人は空をゆく。
ラッキーマンの立場と事情は大きく変化したものの。
当の師弟コンビの、あまりにのほほんとした変わらなさっぷりは、
周囲の者でさえ一瞬その事を忘れそうになる程だった。
「この辺が良いですかね」
「そだね〜」
住宅街から少し外れた場所を上から指さし言う努力マンに、
ラッキーマンは頷き。
すばやく降り立つと共に、二人は変身を解いた。
深呼吸ともあくびともつかぬ大きな伸びをし、
杉田努力は傍らに笑顔を向けた。
が。
その表情はゆっくりと消え、
努力の瞳は大きく見開かれる。
「師匠?」
腕組みの様な格好で、自身を抱きしめうずくまる洋一がいた。
「どうしました・・・?!」
慌てて洋一の背に手を伸ばし___
「わっ!!!」
「ぎゃっ??!!!」
いきなり大声を出し飛びついて来た洋一に驚き、
努力はそのままひっくり返り、勢い余ってもう一回転後ろにでんぐり返し。
ビックリして前方を見れば、お腹を抱えて爆笑する洋一がいた。
指を指しながら、涙を浮かべる勢いで笑う彼に、
ようやく、イタズラを仕掛けられたのだと努力は直感する。
「師匠〜っ?!!何子供みたいな事してんですか!!」
「ごめんな!だってお前、おおげさで・・・あはははは!!」
謝りながら笑いを堪え切れず逃げ出す師匠。
「やめて下さいよ!!ホントに何考えてんですか!!」と追いかけながら。
何でも無くて良かった、と努力はほっとした。
師匠の・・・追手内洋一君らしくないイタズラに、
少しの違和感を感じながら。
それは洋一の笑い声と、
苦笑し許してしまう努力自身の感情にかき消されてゆく。
何でも無いと思っていた。
笑って努力から逃げる洋一も、
文句を言いながら追いかけて行く努力も。
この時は。