二次創作小説・・・ぽいものへの挑戦

□星のかけら
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 「じゃあここね。ちゃんと覚えとけよ、お前もついてないんだから。」

蜂に刺され赤く腫れあがった頬をおさえながら。
そっと呟いた少年の。

あの、イタズラそうな顔と声。
立ち尽くすその犬は、ただそれだけをもう一度見たかった。






人間にとってはほんの少し前の日。
その犬にとっては遠い昔。

犬はまだ小さな子犬だった。

共に産まれた兄妹たちと、母犬の傍でじゃれつき遊ぶ日々。
乳離れをする頃には、1匹、また1匹と兄妹達は、幸せを絵に描いた様な人々に貰われていった。

何故か貰い手の出ない子犬は、ついに自分だけ残されても、幸せそうに母犬に甘えきっていたし。
また、母犬の方もその子の傍を離れようともせず、ピッタリとくっついていた。
この子だけは離すまい、としているかの様に、幾人かの人間の目にはそう映った。


何時からだっただろう。
もう、今となっては分からない。
自分をはじめ可愛がってくれたあの娘の目が冷えてゆく。

そして、あの日静かに言い放った。

「可愛くない」、と。




あの子は特別性格が意地悪な訳でもなかった。遠巻きに、不器用ながらも可愛がってもくれてた小さなお姫様。
そんな彼女を、子犬は嫌いでは無く、むしろ彼女を探して屋敷中走るのが好きだった。
転んでも、ケガしても、最後たどり着いた時には。
お姫様はくすぐったそうに笑ってくれたから。

あの子はいつも大人たちに囲まれて。
綺麗な服と美味しそうなオヤツの真ん中にいて。

そして、いつも一人だった。

「友達」
と言ってやって来る子供がいても、その大半は
お姫様のオヤツやオモチャを持ってくだけだったのを子犬は見ていた。

そして、彼女が「お外」と言う所から帰るとき。大きなお屋敷の前で、必至にこぼれる涙をぬぐって、
懸命にシャンと背を伸ばしてから「ただいま」、と入ってくるのも知っていた。

そんな時、決まって子犬の母犬はお姫様の足元にじゃれつき、彼女の柔らかなほっぺをペロッとなめるのだった。


子犬には母犬がいつも傍にいたけれど。
お姫様の傍には、優しく頭をなでる人はおらず、皆どこか遠慮がちに彼女の世話を焼く。

幸せそうに見えて、一人ぼっち___。


全部見てたけど。
小さかった子犬は分からなかった。


そして、あの日僕はお屋敷から外に初めて出た。
あの子も、母犬もいないとき、知らない人間に連れられて。

でも、お屋敷のおじさんと何か話してたから。
子犬の自分はお屋敷を振り返らなかった。

このお散歩はすぐ終わって、すぐに帰るんだなと思ったから______。
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