話1
□リップの秘め事sideA
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天気予報では穏やかな秋晴れだと言っていたのに、全く何が穏やか だ。吹き荒れる風に舞う木の葉を見て獄寺はひとり悪態をついた。
木々たちはほとんど枝だけとなっていて、冬が近いのだと感じさせた。
(ちっくしょー、寒くなってきやがって。十代目が風邪引いたらどうしてくれんだ!)
獄寺の頭はいつだって綱吉のことだらけだ。今は専ら彼の心配に思考がフル回転している。
そういえば薄着だったな十代目、寒がってないかな平気かな。ったくあの馬鹿キャスターが秋晴れとかほざくからいけないんだ。
「十代目、大丈夫ですか?」
振り向いた先の綱吉は俯いて歩みを止めていた。獄寺は怪訝に思って、近づき彼の顔をのぞき込む。
「………じゅうだいめ?」
「………ぇ? ってぅわわっ!」
目前になって心配そうに自分を見つめている視線に気づいた綱吉は、驚き身体ごとパッと離れた。
「…あ ごめっ 」
彼の手が胸元に置かれていることに気づいて、具合でも悪いのかと獄寺は焦った。愛しの十代目に風邪なんて引かせる訳にはいかない。
「どうしました?…調子良くないんですか?」
「ううん違うよ、ちょっと考え事してて…。だから心配しないで平気」
「…そうですか、」
そう言う綱吉は笑んではいるが、少し晴れていない笑顔のような気がして 心配しないでなんて、少々無理な話であった。
獄寺は自身の巻いていたマフラーをほどきにかかる。
「十代目、」
「え?」
「これ」
それを綱吉の首にかける。戸惑う彼に構うことなく、一番あたたかくなるような巻き方をした。
「つけていて下さい」
気休めだが、少しは暖かくなるだろう。満足したように獄寺が笑んで、帰りましょうと綱吉を促す。
「え、わっ悪いよ獄寺君!風邪引いちゃう」
「オレは平気ですって」
「だめだよかえすよ」
巻かれたマフラーに伸ばした綱吉の手を獄寺は掴んで制止した。
「十代目薄着だから、このままじゃ本当にお風邪を召されてしまいます。お願いですから、今日は大人しく言うこと聞いてください」
真剣に言えば、綱吉は口をつぐんで何も言えなくなってしまった。俯いてしまったので、怒らせたかな と心配になった獄寺だったが、小さな声で わかったよ という声が聞けたので安心した。
照れているのか、少し顔を赤くしているのがわかった。それとも寒さのせいだろうか。どちらにせよその表情は大変可愛らしいものだ。可愛くて守ってあげたくて、オレの身を案じいつも優しく気遣ってくれる十代目が 沢田さんが愛しくてたまらない。
獄寺は熱っぽく綱吉を見つめた。今みたいにこの手で抱きしめてしまいたくなる衝動が、いったいこれまでに何度あったことだろう。顔を上げた綱吉と目が合ってしまい、ごまかすような笑みをとっさに浮かべる。
「明日からはちゃんとマフラーしてくるね」
「はい!そうしてください十代目」
「あ、獄寺君っ」
「? なんですか?」
「あのっ、…ありが ………っ!」
お礼を言おうとしたその語尾で綱吉の表情が歪む。獄寺は慌てた。俯いてしまった綱吉の、ちらりと見えた顔はなんとも悲痛そうである。
「えっ!?じゅ、じゅうだいめ!どうされたんですか!!」
「…っう〜、いたい………」
「どこッスか!どこが痛いんスか!?」
「く、くちびる」
「………唇?」
「きった、」
冷える空気の中、どうやら唇を乾燥させてしまったらしい。喋ると同時にその唇をきったみたいだ。よく見れば赤くうすらと浮かぶ液体。
「じゅ、十代目!血がっ、」
十代目の大事なお身体の一部に傷が!たかが唇を切っただけといえど獄寺には大問題だ。大切な大切な十代目が血を流している。その事実を前に、獄寺は安易に触れてしまった。涙を拭うかのように、唇からの出血を拭ったのだ。綱吉の唇、柔らかい桃色の唇に 触れた。
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