話1

□放課後オレンジ3
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 補習が終わって、山本は家の手伝いがあるからと先に帰って、綱吉は獄寺を待たせていたので 急いで教室へと向かっていった。
 誰も居ない廊下を走る。白い壁に足音が跳ねる。
 窓からはほんのりオレンジが差し込み、夕方も夜に近づいていることを知らせた。

(…獄寺君ってば、別に先に帰っても良いんだけどなー。待っててもらうの なんか悪いし)

 でも仮に そこで獄寺が本当に帰ったとして、彼は間違いなくそのことを寂しがるのだ。切ない気持ちを抱え、帰り道をとぼとぼ歩くに違いない。
 まあ右腕と豪語する彼が親愛なる主を置いて帰ることはまずないのだが(まれにダイナマイトの仕入れだと言い早々と早退することはある)。
 獄寺は今日も綱吉を待っている。教室にひとりぽつんと座り、きっとつまらなそうに遠くを見つめているのだ。それが、綱吉が扉を開けると途端に顔が明るくなって「じゅうだいめ、おかえりなさい。おつかれさまです」と言って駆け寄ってきて。

(なんだか犬みたいだ)

 いつも思う。そしてかわいいと思う。綱吉は獄寺の笑顔が好きだった。その笑顔が自分だけに見せられることも知っていた。
 だから早く、待っている彼の表情を綱吉は笑顔に変えたかった。

(はやく、早く獄寺君)

 ごくでらくんの顔がみたいよ。










 放課後オレンジ










 勢い良く扉を開けた。誰も居ない放課後にはとても響いて、普段ならこんな音かき消されるのに と綱吉は改めて静けさを感じた。

「獄寺君おま た、せ…」

 語尾になるにつれ声は小さくなっていった。いつもならしっぽを振って駆け寄ってくるのに、今日は声こそかけてこない。
 そりゃそうだ。当の本人獄寺隼人は、寝息をたててすやすや眠っていたのだから。

「寝ちゃったんだ…」

 待ちくたびれてしまったのか。確かに今日の補習はいつもより長かった。綱吉は起こそうか少し迷って、彼の寝ている隣の席に静かに座った。

(起きるまで待つのも…うん、悪くないかも)

 期待していた笑顔がなくて残念だったが、これはこれで得をしたのかもしれない。
 寝顔を見るのはこれが初めてだ。普段綱吉と一緒にいるときの獄寺といえば、「いつ十代目の命を狙う輩が現れるか分かりません!」「でも安心して下さい、オレが貴方を守ります!!」などと言っていつも気を張りあたりを警戒している。綱吉と居るとき、彼はとびきりの笑顔を見せてくれるが いつも主を守るために必死だ。その獄寺の、こういった無防備な姿を綱吉は見たことがなかった。ここは日本で安全なんだから、もうちょっと気を休めてくれてもいいのに。常々そう思っていたものだから、こうして彼の寝姿を見れたことはかなり貴重で そして綱吉自身とても嬉しかったのだ。オレの前で気遣わなくて良い もっと気楽にして、もっといろんな君を見せて。
 獄寺の寝顔を見ながら、綱吉はとてもあったかい気持ちになった。

「………ぅ、ん…」

 身じろぐ。そろそろ起きるのかな と顔を覗き込んでみるが、その表情は何だか幸せそうで 薄い唇を半開きにしてちょっと間抜けそうに見えた。別段起きるわけではないらしい。

(あはは、かわい…)

 獄寺隼人のすべてを微笑ましく感じる。そのイタリア育ちの顔をまじまじと見た。端正な顔。かわいいけどかっこいいよなーなんて綱吉が思っていたら、目の前の半開きの口が動いた。

「…ぃめ、じゅうだい め………」
(なに、寝言…?)
「おれ………、あなた の 」

 どくん






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