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あれから10年経った。

あれから、というのは俺達真撰組が対テロ組織として武装警察、なんて呼ばれてた頃だ。
しゃくな話だが、今まで俺達が戦ってきた桂小太郎が革命とやらを起こし、江戸の町はまた人間の手に戻ってきた。
天人なんかもうほとんどいない。
これが俺達侍の夢見てきた、取り戻したかった江戸だった…はずだった。

やはり革命というものに犠牲は付き物で、たくさんの人が死んだ。
今まで平和だった通りや往来の中で、たくさんの血が流れた。
そもそも、革命が起きたのも天人が将軍を民衆の目の前で処刑し、この国を完全に自分達のものにしようとしたことから始まった。
まず天人を憎む攘夷志士達が立ち上がった。

それから、民衆。
そして、完全に木偶と化した幕府の人間の中にも将軍を、江戸を守ろうとする者が出てきた。
しかし、俺達は動けないでいた。
幕府に雇われているということ、それはすなわち天人に雇われているも同然だったのだ。
そんな俺たちが、討幕運動などに手を貸せば、確実に真選組はつぶされる。
地位だとか名誉だとか、そんなものには全く興味はなかったが、やはり盟友である近藤さんの夢である真選組を、自ら潰すような真似だけはしたくなかった。

そんな中、やはり幕府を倒しこの国を壊そうとする高杉が現れた。
同じ攘夷志士でも、幕府を憎む者と天人を憎む者がいた。
高杉は前者であり、後者でもあった。
世の中を憎んでいた。
奴の過去など知らないし、詳しい事情なんて知る必要もない。
ただ、斬れば良い。
そう幕府の上官に言われて俺達は動き出した。
江戸を救う為でも、幕府を守る為でもなく。

しかし、俺達の仕事はすぐに無くなった。
高杉が、死んだのだ。
いくら調べても、何をしても誰にやられたかはわからなかった。
ただ、現場には左腕が落ちていた。
肩から10センチ位の所から下が。

その腕を見たとき、いや、正確には高杉が死んだと告げられたときに大体の見当はついていた。
だが俺はそれを誰にも言えなかった。
言ってはならない。
そんな気がしたんだ。

高杉が死んだことにより、攘夷志士達の殆どが天人を排除しようとする動きに変わった。
おそらく、高杉という御旗を失った過激派もそもそもの原因を作った天人へと、怒りの矛先を向けたのだろう。
そうして桂を筆頭に攘夷志士が集まり、結束した攘夷志士達はすぐに天人を追い出した。
俺達の出番などなかった。
それからすぐに、幕府は天人のいなかった頃の機能を取り戻した。
侍の地位も向上し、それと同様に真撰組も、以前より大きな組織となった。
真撰組の地位を向上させたのが、以前俺達が捕まえようとしていた、現在は幕府で政策を指導する桂だというのがなんとも不思議な話だが。

そして真撰組の地位があがったことで、自然と副長である俺は内勤が増えた。
見回りなんてもう何年もしていない。

そういえば、この何年かの間に色々なことがあった。

近藤さんがストーカーをやめた。
というのも、する必要が無くなったのだ。
今やあの二人は夫婦だ。
なかなか似合いの夫婦だと思う。
近藤さんが、本気で結婚を申し込んだときに道場の復興資金を出す、と言った。
すぐに平手打ちを喰らったが、近藤さんは諦めなかった。
しかし、妙は「資金なんていらない。その代わり、道場が復興したら迎えにこい。」と言ったのだ。
なかなかの男前だと思った。
そうして今や二人は、江戸でも有名な仲の良い夫婦だ。

総悟は相変わらず俺の命を狙ってくる。
一つだけ変わったのは、万事屋のチャイナ娘がえいりあんばすたーである父と共に宇宙に帰ってしまい、遊び相手がいなくなってしまったくらいだ。
口には一切出さないが、やはりさびしいのだろう。
時折宙を見上げてはどこにいるとも知れない遊び相手に悪態をついている。
だが、もう二度とチャイナ娘は帰っては来ないだろう。
完全に天人を排除したこの江戸には、天人であるアイツの居場所は無くなってしまったのだ。
それを悟ったチャイナ娘は、革命後、すぐに宙へと旅立った。
それを思うと、どうにもやりきれない気持ちになる。
いや、一番やりきれないのは総悟だ。
なんだかんだ言いつつも、総悟はチャイナのことが好きだったんだろう。
思いも伝えられないまま、別れが来る事のつらさを俺は知っている。
だがもう何を言っても無駄なのだ。

山崎はというと、アイツはもう真選組勤務ではなくなった。
俺直属の部下として、隠密を中心に働いてもらっている。
だが、地味なのには変わりない。

そして、妙の弟...今は近藤さんの義弟か。
新八は、姉とともに道場の師範として頑張っているようだ。
相変わらず寺門なんちゃらに現をぬかしているようだが...。

そうだ。

そういえば、万事屋はどうしたのだろう。
昔は、顔を合わせればすぐに喧嘩していたな。
だが、思い起こせばあの革命が起きた時から一度もアイツを見ていない。

「生きてる、よな。」

高杉の骸とともに落ちていた腕は、アイツのものだった。
どうして、と聞かれたら答えに困ってしまう。
とにかく、あの腕は万事屋のものだったんだ。

少し人より色が白く、たいして働いてもない癖に程よく筋肉の付いていて、綺麗な、腕。

あの腕の持ち主は、アイツでなければいけない。
そんな気がしたのだ。

あれから10年。
今は何をしているのだろう。
かぶき町なんて、かれこれ8年以上訪れていない。
それは俺が内勤ばかりで...いや、違うな。
俺は本能的にあの場所を避けていたのかもしれない。
アイツのいる...腕のないだろう万事屋がいる、かぶき町を。

「...久しぶりに見回りでも行くか。」

思い出してしまったからには、確かめたい。
避けることをこれ以上続けてはならないような気がして、見回りに行くことにした。
まだまだ書類の山は片付きそうになかったが、これくらい大丈夫だろう。



さぁ、懐かしいあの町へ。

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