浅き夢見し恋せよ乙女

□終わらないおとぎ話を
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「眠り姫も、白雪姫も、王子様のキスで魔法が解けて目を覚ましたの」



私もいつか、そんなロマンチックなキスしてみたいなあ…
なんて眠り姫と表紙に書かれた本をパラパラとめくりながら美雨は笑った。



だから、せっかくだからそれを叶えてあげようと、眠る君の唇に優しく口づけた。



なのに、




「なんで、起きないのさ…」




彼女の傍らに置かれた難しそうな機械は、ピッピッと相変わらず単調な音を奏でている。

真っ白で清潔感のある、それでいて殺風景なその部屋の小さなテーブルには、誰かが持ってきたらしい色鮮やかな花が花瓶にいけられていた。




「美雨」




ふっと彼女の頬に手を添えた。




温かい。
彼女はちゃんと生きてる。




なのに、
なんで起きないの。




『白雪姫も眠り姫も、王子様と一緒に一生幸せに暮らしたんだよ』
そういったのは君だった。



ほら、早く起きなよ。
王子様がこんなに起こしてるのに、いつまで待たせるのさ。
それともまだキスが足りないのかな?




「美雨…」




彼女の顔を上から覗き込むと、その白い肌にポタポタと雫が落ちた。



それが一体なんかのか、俺にはわからない。



今自分がどんな顔をしているのかも、さっきまで何を考えていたのかも、彼女がどうしてこんなことになってしまったのかも。



わからない。

思い出せない。

思い出したくない。




彼女の右隣に設置された小さな本棚には、ページの途中にしおりが挿まれた本が一冊。



何度も読み返すその姿に、
『よく飽きないね』と笑った。



あの日から繰られることのなくなったページ。
しおりが挿まれたそのページで
眠り続けるお姫様。



続きは帰ってから読むんだ!
と笑っていた君は、あの日から長い眠りについた。




「早く起きなよ…じゃないとお話が終わらないじゃんか…っ」




王子様と一緒に、一生幸せに暮らすんでしょ?
また君は本をめくって、よく飽きないねって俺が笑って、





「っ…お願い…」





今度はちゃんとした、幸せなキスを君に送るから。





「…起きてよ…っ」





傍らの花が静かに散った。




END.


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