浅き夢見し恋せよ乙女
□月夜恋歌
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「お、こんなとこにいたのか」
「え?あ、政宗…」
暗い縁側に一人座っていた美雨に、政宗は呆れるように声をかけた。
「こんなに寒ィってのに何やってんだ一体」
「お月見」
「月見?」
「そう。秋は空気が澄んでいるから、月がとても綺麗に見えるの」
「…中入らねえと風邪ひいちまうぜ」
「このくらい平気よ」
数秒した後、視界が急に真っ暗になって、ふわりと政宗の匂いがした。
よくよく見ると政宗が先程まで羽織っていた羽織だった。
「?」
「着てな。いくらかマシになるだろ」
「…ありがとう」
それから政宗は何も言わなくなった。
多分私の邪魔をしまいをしているのだろう。
私も何も言わなかった。
なんで私を探していたのとか、寒いなら政宗だけでも中に入ればいいのにとか、言いたいことはたくさんあったけれど、口には出さなかった。
出さなくていいと思った。
チラッと横を見れば、政宗は静かに目を閉じてそこにいた。
何を考えているのかわからない。
閉じた瞳の奥に誰を映しているのかもわからない。
私だったらいいな、なんて淡い期待をふと抱いてみる。
「政宗、」
「ん?」
こちらを向いた政宗を、ただ純粋にどうしようもなく好きだと思った。
このまま時間が止まってしまえばいいとも思った。
でも、そんな願い叶うはずがないと、
届くはずがないのだということはちゃんとわかっている。
だから、
だからせめて、
あなたをすり抜けていく涼やかな風。
あなたが耳にした繊細な虫の音。
あなたに降り注ぐ淡い月の光。
「好き」
そんなものに、なりたい今。
END.