浅き夢見し恋せよ乙女
□初恋
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今日、城に新しい女中が入った。
小柄で、笑った顔がとても印象的だった。
「美雨と申します。はじめまして、幸村様。」
昔から女子に免疫のない自分は、いつもならその場から顔を赤くしながら逃げ出していただろう。
それなのに、どうしてだろうか。
素晴らしい美人というわけでもない、性格がどうだのまだわかるはずもない。
それなのに、目の前にいる初対面のその女子から目が離せなかった。
「美雨ちゃーん、洗い物お願い出来るかしらー?」
「あっ、はい!只今!」
向こうから聞こえてくる美雨の声は、まるで昔から聞いていたかのような、そんな懐かしい雰囲気を纏っている。
「美雨殿…」
「なーに、旦那ったら、美雨ちゃんに惚れちゃった?」
「な"っ!?」
バッと振り向けば、そこには何時の間にか自分の部下である佐助が立っていた。
「さっ、佐助!いつからいたのだ!!」
「だいぶ前から」
「全く、気づかなかった…」
一体どうしたというのだ。
部下の気配にすら気づけないだなんて…
「…で、旦那。美雨ちゃんに惚れちゃったの?」
「なっ、ばっ!馬鹿を申すな!!そんなわけなかろう!」
「だってぼーっとしながら美雨ちゃんの名前呟いてたし」
「それはっ、そのっ、早く名前を覚えねばならぬと思ってだな!!」
「ふーん…美雨ちゃん優しいし真面目だし、たまにおっちょこちょいだけどそこがまた可愛いし良いと思うけどなあ…」
残念そうな顔で言う佐助。
何が残念そうなのかは自分でもわからないが。
というか今日来たばかりの女中のことを何故そこまで知っているのか。
「…本当に良い子だと思うよ?」
性懲りもなくぶつぶつと言う佐助に、少しの苛立ちを込めて俺は言った。
「それほど言うのならばお前が惚れればいいではないか!」
執務があるから部屋へ戻る!!
と、俺は佐助を置いてズンズンと部屋へと歩き出した。
佐助が溢した小さな呟きが、耳に届くはずがない。
「…それじゃ意味ないんだよ、旦那」