浅き夢見し恋せよ乙女
□星が泣いた日
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天から降り注ぐ恵みの雨は、地を濃く染め、緑を美しく輝かせている。
そんな晴れそうもない灰色の空を見上げて、美雨は小さく溜息をついた。
「美雨様、こんな所に居られたか」
声のしたほうを見れば、美雨の兄の腹心である片倉小十郎の姿があった。
彼は美雨に静かに歩みよると、隣に腰を降ろした。
「降って参りましたな…」
「うん…」
「…美雨様?」
彼女の一言には何か寂しげな影が差していたので、小十郎は不思議に思い、隣にいる美雨を見た。
「…これじゃ、織姫様と彦星様が会えないじゃない…」
彼女はまた溜息をつくと、手にしていた一枚の短冊をきゅっと握った。
あぁ、そうか今日は…
「年に一度の大切な日なのに…」
「美雨様は、何をお願いしようとしていたので?」
「…内緒よ」
美雨の少し寂しげな目は何処か遠くを見つめていて、
今、彼女の瞳に何が映っているのかなんて小十郎にはわからなかった。
「…美雨様は、織姫になりたいと幼い頃によく申されておりましたな」
そう聞くと、美雨はふっと静かに瞳を閉じた。
「…あの頃は憧れていたの、遠く離れても変わることなく愛し続けるあの2人のこと。…けれど、今の私には無理」
閉じていた瞳を開くと、美雨は少し寂しげに笑った。
「それはどうして…」
「私には、出来ないもの…」
大好きな人のそばにいられないなんて、私には出来ない。
「待ちに待った年に一度の日だって、雨が降ったら逢えないんだよ…」
小十郎を見つめた彼女の瞳は、雨が反射したのかキラキラと輝いていた。
綺麗だと、なんの迷いもなくそう思えた。
「…ねえ、小十郎…」
「はい」
「…ずっと、そばにいてね…」
羽織をキュッと握った彼女の手は、小さく震えていた。
「勝手に、いなくなったりしないでね…」
「美雨様……」
あぁ、もう、この人は…
自然と頬が緩んでしまう。
自分が貴女のそばから離れて行くなんてこと、あるはずがないのに…
「美雨様…願い事、きっと叶いますよ…」
小十郎は、羽織を掴むその手に自分の手を静かに重ねた。
END.