浅き夢見し恋せよ乙女
□扇風機と恋心
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「まっ、政宗くんって、今日誕生日だよね?あのっ、前に勉強教えてもらって、だからっ、そのお礼も兼ねて、ケーキ焼いてきたんだけど、よかったらっ、受け取ってくださいっ!!」
「……」
手にしたケーキの箱をずいっと前に出す。
あまりの緊張のために言葉はカミカミだし、顔は真っ赤である。
「だめ、かな…?」
返事はない。
まあ、あるはずがないのだ。
だって扇風機だもの。
「はあ〜…どうしよ…こんなんで渡せるのかなあ私…」
ケーキの箱を眺めながら美雨は大きく溜息をついた。
今のはあくまで予行演習であって、別に暑さで頭がおかしくなってしまったわけではない。
今日は政宗くんの誕生日。
あんまり話したことないし、陰から見つめてるだけだったけど、だけど!
やっぱり私のこと見て欲しい。
そんなこんなで、今回の『ハッピーバースデー政宗くん!大作戦』を思いついたわけですよ!
この扇風機には今日まで何度お世話になったことか。
「って、うわっ!もうこんな時間!?野球部の朝練終わっちゃう!!」
政宗くんの所属する野球部は、毎日早くから朝練をしているので、朝練が終わった頃でさえも登校してきている生徒は僅か。
だから、誰にも知られずに政宗くんにケーキを渡せる絶好のチャンスなわけです。
「よしっ!んじゃ、頑張ってくるね!」
長い間シュミレーションに付き合ってくれた扇風機に一言かけると、美雨は部屋を勢いよく飛び出していった。