浅き夢見し恋せよ乙女

□泣きそうなのは君のほう
1ページ/3ページ





「一人暮らし?」




佐助の口から出た言葉を、私は同じように繰り返した。




「そ、いつも美雨ちゃんに家事頼ったりしちゃうし、ちょうど受かった就職先もここからだと距離があるし、いい機会だから独り立ちしてみようかなって」




最初はなんと返事をすればいいのかわからなかった。
頭が話についていけていなかったのだ。
理解するのに要した時間は約5秒。
普段は短く感じる5秒という単位が、今はとてつもなく長く感じられた。




「…そっか、いい考えなんじゃない?いつ出ていくの?」

「実は荷物とかまとめちゃってるからさ、明日には行こうかなと思うんだ」

「明日かあー、じゃあ一緒に作る夕飯も今日で最後か…」




そうだねえ。なんて今までを思い出しているかのように何処か遠くを見つめる佐助。
それを見つめる私は、今どんな顔をしているのだろうか。


彼は友人であり恋人だとかそういった関係ではない。
たとえ私が彼に対して恋愛感情を抱いていたとしても、彼が私に対して同じ感情を抱くことは決してない。
だから、引き止める理由など何処にも存在しないのだ。




「せっかくだし、今日はカレーでも作ろっか」

「えっ、あ、うん!そうだね」




忙しくて時間がない日や、何か特別な日だったりすると、
夕飯は大抵二人でカレーを作る。
今日という日も彼にとっては特別な日なのだろうか。
私にとっては、絶対に忘れられない日になるのだけれど。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ