浅き夢見し恋せよ乙女
□一方通行な僕ら
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オレンジ色の光が差し込む教室。
入ればそこはまさにドラマのワンシーンのような光景だ。
そのなかに溶け込むように佇む彼女。
他者の気配に気づいたのかバッと振り返ると、それが俺だと認識し、へらっと笑った。
「振られちゃった」
俺は何も答えないまま美雨ちゃんに近寄り、
そばの机に腰をおろした。
「悪ィ、今は野球しか眼中にねえんだ。だってさ。政宗らしいよね」
グラウンドから教室に届く聞き慣れた声。
別にあの旦那のことは嫌いではない。
むしろ仲はいいほうだと思う。
けれど、今はその声が酷く耳障りだった。
美雨ちゃんが黙り込んだと同時に俺は口を開く。
彼女が吐き出した感情を、余すことなく受け止めてあげたかったから、
俺がこれから紡ぎ出す言葉を、その耳でしっかりと聞いていて欲しかったから。
「美雨ちゃんを振るなんて、勿体無いことするねえあの旦那は。俺様だったら即OKするのにさあ」
(俺にすればいいのに)
それは遠回しな告白だった。
けれど、彼女がその意味に気づくことはきっとない。
「あはは、まったくだよ!絶対に後悔させてやるんだからっ」
彼女の性格はよく知っている。
負けず嫌いで、弱さを人には絶対に見せなくて。
今にもこぼれそうな涙を必死に堪え笑っていることも、簡単に忘れることなど出来ないくらいアイツのことが好きだったことも、俺は知ってる。
ずっと、隣で見てきたから。
見ていることしか、出来なかったから。
「ねえ美雨ちゃん、」
「なに?」
「…帰り、なんか奢ってあげるよ」
「え!ほんと!?」
「ほんとほんと」
危うく口から飛び出しかけた言葉を必死に飲み込んだ。
伝えたって、困らせるだけなことも、届くはずがないことも、ちゃんとわかってるから。
「ありがと〜!だから佐助とは友達やめられないわ!!」
「あはは、そりゃどうも」
不意に彼女の口から紡がれたひとつの単語が、何度も頭の中で反響する。
友達。俺は、友達…
それは世界一残酷で、それでいて慈愛に満ちた言葉。
近づくことも、離れることも出来なくて、一定の距離を保ち歩き続ける僕ら。
このまま歩き続けたら、一体何処に辿り着くんだろうね。
早く行こうと俺の手をひき無邪気に笑う彼女に、
複雑な感情を胸に秘めながら、俺はそうだねとただ笑った。
END.