浅き夢見し恋せよ乙女

□欲しいのは一個だけ
1ページ/1ページ





幸村は誰もが認めるほどの超甘党で、しかも見た目もかっこいいということで、毎年この日、彼の下駄箱、机(上)、机(中)、机(下)、その他もろもろはチョコで溢れかえっている。
同じくらい大量のチョコを貰う政宗も同じクラスのため、一日中甘ったるい匂いの中授業を受けねばならず(毎年4人は倒れる)、今年もそんな調子だろうと覚悟して学校へやってきた。







…のに。






「……幸村」

「美雨殿!おはようございまする!!」

「…チョコは?」

「チョコ?」





教室に入れば途端に甘いチョコ臭が漂っているはずなのに、
今年はチョコ臭どころか幸村の手元にはチョコがひとつもなかった。




私が日付間違えてんのかな…




「幸村、今日って2月14日だよね?」

「そうでござるよ?」




私の質問に、顔をキョトンとして答える幸村。
いやいやいやいや、なんかおかしくない?
いや毎年あの量のチョコ貰うほうがおかしいかもしれないけどさ。





「幸村、今年の収穫は?」

「あぁ、今年はありませぬ。皆、断り申しました故」

「ええっ!?」





あの超甘党な幸村がチョコを受け取らないだなんて…
もしかしたら今日世界は終わるのかもしれない。





「一体どうしたの!幸村毎年チョコ楽しみにしてたじゃない」

「それは今も変わりませぬ」

「んぇ?」





幸村の言っていることがよくわからず、首をひねる。
そんな様子を見かねたのか幸村はゆっくりと口を開いた。





「今だって甘味は大好きでござるし、たくさんチョコをいただける今日この日も楽しみにしておりました…けれど、某は決めたのでござる」

「何を?」

「…今年から某は、本命のお方からしかチョコを受け取りませぬ!」

「…まじか」

「まじでござる」

「…へぇ…」





幸村もそんなことを考えるんだなあ…と少し感心しながらも、
私は突然突き刺さった何かの痛みにずっと耐えていた。
ズクズクと疼き、消える気配は一向にない。




幸村の本命って、誰なんだろう…




「ねえ、幸む「ですから、美雨殿」え、あ、はい!」




私の声を遮って、幸村の声は二人しかいない教室にスッと響いた。
そして一瞬にして消え去り、教室は再び静まり返る。


何処か遠くに目を向けていた幸村は、おもむろに視線の先を美雨に変えた。
まっすぐな瞳と視線がかち合ったと思えば、その下の整った唇が緩やかなカーブを描いた。




「某はずっと、お待ちしております」

「…え?」




そう言った幸村が、今までにないくらい優しく笑うものだから、私は驚いて思わず目を反らしてしまった。
気づけばあの痛みも何時の間にか消えていた。



カバンの中には、一週間前から何度も試行錯誤を重ね、やっと完成させた本命チョコがひとつ、今か今かと出番を待ち続けている。




欲しいのは一個だけ
(渡したいのは一人だけ)





END.



ーーーーー

今頃なバレンタインねた。
テスト期間カブっててUP出来なかったのですorz


このあと大量のチョコを抱えてやって来た政宗は、素晴らしい疎外感に見舞われます。
試合に勝って勝負に負けるとかいうやつです( ´ ▽ ` )笑

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ