浅き夢見し恋せよ乙女

□目は口ほどに
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最近よく思うんです。
私、言ったことないなあって。








「こ、小十郎さんっ!!」



大好きなその後ろ姿へ向けて、私は声を発する。
すると気づいてくれたようで、小十郎さんは足を止め、振り返ってくれた。



「ん?美雨か、どうかしたか?」

「あ、えっと…」



呼び止めたはものの、上手く言葉が出てきてくれない。
うー…さっき頑張って練習したのに…



「?気分でも悪いのか?」



そう言って私の元へと足を進めてきてくれる小十郎さん。
遠目でも近目でも素晴らしく素敵です。
そしてそんなに…見つめないでいただきたいです…穴が空きそう…



「おら、言ってみな?」

「その…え、うぅ…あ…」



小十郎さんが近づけば近づくほど言いにくさが悪化している気が…


口からでる言葉はまるで赤子のようで、小十郎さんは首を傾げてしまっている始末。



だめ、諦めるな、言うんだ私!今日こそは言うんだ!!




「わ、私…その、えっと…小十郎さんが…す、す……す、









っ西瓜です!!」

「……」





…小十郎さん、口が、塞がってませんよ…

そして私よ…西瓜が、何だって?



なんで、言えないのよ…



「ご、ごめんなさいっ!今のは違うんですっ…その…私…」



目の前にいる小十郎さんの姿がボンヤリと歪み始めた。
上手く喋ってくれない口が、どうしようもなく震える。




こんなに、伝えたいのに…




視界は曖昧で、第一顔なんてまともに見れるはずがない。
小十郎さんの呆れてる顔が鮮明に浮かぶ。
多分まだ口塞がってない。





「…美雨、」

「なんで…すかっ…?」



聞き慣れた低い声に小さく肩が跳ねる。



ごめんなさい…
謝るからっ…嫌いにならないでくださいっ…



震えた声で言葉を返すと、頭上から予想もしなかった言葉が降ってきた。




「…無理は、するな」

「ぅ、え…?」

「言わずとも、ちゃんとわかってる…嫌いになんかなりゃしねえよ」

「こじゅろ、さ…」




なんで、わかっちゃうんですか?
私の言いたいことも、考えてることも、全部、全部…




「…だから、そんなに急ぐ必要はねえ」

「っ…はぃ…!」

「ん、いい子だ」




小十郎さんは私の頭をクシャクシャと撫でると、額にひとつ口づけを落とした。




温かくて、優しくて…本当に、どうしようもないくらい、私はこの人を、愛しく想う。


いつか絶対にこの口から、伝えてみせるから…





「というか…毎日言われてるようなもんなんだがな…」

「え?」




目は口ほどに
(あんなに見つめられて、)
(伝わらないはずがねえだろ?)



END.




ーーーーーー

解説(?)


付き合ってから一度も好きと言ったことのないヒロインちゃん。
でも小十郎はちゃんとわかってるんです。
なぜならヒロインちゃんがいつでも自分を切なそうに見つめているからっ…!!
小十郎も常にこっそり見つめていたのですよ!
だからすぐに気づいたの。

そんな距離感が大好きだ!!

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