浅き夢見し恋せよ乙女
□雑音に消える
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口いっぱいに広がった甘み。
唇に感じた柔らかい温もり。
それと目を閉じた幸村の顔。
なんか、超近い。
「っ!??ちょっ何してんのっ!!?」
バッと顔を離すと、幸村はいつもの子供っぽい笑顔で平然と答えた。
「先程のちょこれいとを思い出した故。甘かったでござろう?」
「え?あぁ、まあね…」
そう答えれば彼は「これで悪戯はなしでござる♪」と言って再びテレビに目を向けた。
ハロウィンの特集が終わり、別な番組が始まったのだ。
「まったく…甘い=お菓子ってどーなのよ」
ため息混じり呟いた言葉も、テレビに夢中になっている彼の耳には届きはしない。
今のキスにはなんの意味も込められてはいない。
悪戯を逃れるためのただの最終手段であって。
愛とか好きとか、そういう色気めいたものは一切含まれていないのだ。
そんなことわかってる、わかってるけど、
赤らんだ頬はまだ熱を帯び、速まった鼓動は治まることを知らないでいる。
「……ねえ幸村ーーー」
けれど、口から出たその言葉はテレビの音声によって再び儚く掻き消されてしまったのだ。
「?今、何か申されたか?」
「…ううん、なんにもっ」
雑音に消える
(チョコの甘さだけが)
(やけに鮮明)
END.