浅き夢見し恋せよ乙女

□甘さ染み込む
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「っふいー…美味しかったあ」




それから三時間ほどかけて私は目の前の大量の皿を空にした。




「甘さ控えめだし美味しいし、余裕で入っちゃった♪」



小十郎手作り野菜スイーツが収まったお腹をポンポンとさする。




「でも小十郎、なんで少ししか食べなかったの?」



食べ終わるのに時間がかかったのは、お菓子の量が異常に多かったから、ってのも確かにある。
でも、そのほとんどを私が食べたから、ってのもあるのだ。




「いや、元々お前だけに食わせるつもりだったからな」

「えー、なんでよー?」

「オレの作ったもんを美味そうに食うお前の顔が好きだからだ」

「すっ!??///」




小十郎の口からは滅多に出てこない「好き」に顔を真っ赤にする美雨。
気づかれては癪だと話を反らす。



「ま、まったく!食べ過ぎて身体中が甘ったるいじゃんかよ!」




キッと小十郎を軽く睨むと、彼は全て見通すように、ふ、と口元を緩めた。




「美雨、」

「な、なに!!?」



肩を急に掴まれて思わずギュッと目をつぶると、頬に指の触れる感覚。



「さっきから頬にクリームついてるぜ」

「はへっ!!?」




なんですと!??



雰囲気も何もありゃしない。
ほっぺたに生クリームつけっぱなしで気づかない馬鹿なんて最近の漫画にも存在しないよ!


小十郎の指には私の頬についていたのであろう真っ白な生クリーム。
彼はそれをテーブルに置かれていた布巾で

拭かず、あろうことか自分の口に含ませた。




「な"っ!??///」

「ん、ちょうどいい甘さだな」



彼の中に羞恥心とかいうものはないのであろうか。
いたって平然とした表情で指のクリームを舐めとっていく。
その反面美雨は恥ずかしくて恥ずかしくて、真っ赤だった顔は余計に赤みを増した。




「さて、と」




小十郎が私の肩をゆっくりと押す。
そして視界に映るのは天井と小十郎のみになった。
背に触れるフローリングがやけに固く冷ややかに感じる。




「こじゅうろ…」

「そんなに甘ったるくなってるんじゃ、ちゃんと味わってやんなきゃなあ?」




口元が怪しく弧を描いていく。
目なんか獣みたいにギラギラしてて。
そんな表情さえもとても好きだと思う私は、きっと末期なんだと思う。



「ねえ、最初からこれが目的だったとか言わないよね?」

「さあな」




甘さ染み込む
(ゆっくり、ゆっくりと)
(貴方に染まっていく)


END.
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