浅き夢見し恋せよ乙女

□present for you!!
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つい最近めくられたばかりの8月のカレンダー。
その月の3日には赤ペンで大きく丸が描かれている。

彼がカレンダーを見ることはまずない。
だから、私がつけておいたその赤丸に彼が気付くわけがなかった。
いや、仮に気づいたとしてもその日が何の日なのか首を傾げることだろう。
多分、というか今年も絶対に忘れているに違いない。

自分自身の誕生日ですら。










「んじゃあ美雨、いってくる」

「うん、いってらっしゃい!」



大学へと向かう政宗の背中を見送ると、
私は部屋へと戻り、急いで着替え、キッチンへと向かった。

そして事前に買って隠しておいたケーキの材料を目の前に並べる。


時間はまだある。
でも早めに取りかかっておこう。

飛びっきりおいしいケーキ作って、
政宗を驚かしてやるんだ。














「よしっ!あとは生クリーム!」


オーブンへスポンジの種を入れると、美雨は腕まくりして目の前に立ちはだかるボウル、泡立て器に手をかけた。

一瞬辺りが静まり返る。




「…!!((くわっ」



「どぉりゃああぁああ!!!」




カッカッカッカッ…




キッチンに美雨の気合いのこもった叫び(?)と生クリームを掻き混ぜる際に生じる、ボウルと泡立て器が接触する音だけが響いていた。











〜2時間後〜





「おぉおおおう!??」


が、ボウルを覗き込んでみても生クリームは
ちょっと泡だったかなー
といった感じでちっとも変化ナシ。
サラサラなままだ。

気のせいだろうか、生クリームの量が減ったように見えるのは。
気のせいではないと思う、ブラックのキッチンがホワイトと化しているのは。



単刀直入に言おう、美雨は料理が出来ない。






「おっかしーなぁ…これでいいのかな…」





そんなサラサラの液体を、あのスポンジにどうやって飾る気なのか。





「そうだ!空気を入れるようにって書いてあった!」






〜1時間後〜





つたない記憶を頼りに掻き混ぜてきたところ、
少しずつだが液体は固体へと変わってきたようだ。





「いいじゃんいいじゃん!この調子でーー『〜♪』ん?」





メールの差出人は政宗だった。





『早く帰れることになった。今、駅だからあと30分すれば着く』




「げ」





いや、早く帰って頂けるのは嬉しいですけども、
ちょっと今日に限って…?



目の前の生クリームに目を向ける。
固まってきたはものの
まだ形を留めるほどの固さには至っていない。



「帰ってくるなって言うのはアレだし…あぁーもう!」


やるしかない!!
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