浅き夢見し恋せよ乙女
□ハッピーデイズ
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「ぅおおおお!!!み・な・ぎ・るぁぁぁぁ!!!!!」
どっごぉぉぉん!!!
…今日も彼は元気なようで。
退屈な授業。
真面目に受けている振りをしてはいるが、
意識はグラウンドに響き渡る威勢のいいその声に傾けられていた。
その声の持ち主は2組の真田幸村くん。
部活に執念を燃やし、いつの日からか部活馬鹿と称されるようになったものすごく熱い人。
ついでに言うなら、
私の好きな人。
整った顔が作り出す笑顔は子供のように無邪気で可愛い。
それと同時に、部活中の真剣な顔はめちゃくちゃかっこいい。
もうそれが自分に向けられたなら鼻血吹いてぶっ倒れてしまうくらいだ。
言うまでもなくモテる。
モテまくる。
だが、女子が苦手なようで
話しかけようものなら顔を真っ赤にして
「破廉恥でござるぁぁぁ!!!」とか叫びながら
光の速さでその場から逃げ出していくのだ。
まぁ、そこが逆にツボなわけなんだけど。
まぁ私は5組で、真田くんとは話したこともないし、関わったことなどまるでない。
きっとこれからも。
私の存在なんてまったく知られずに三年間終わっちゃうんだろうなぁ。
○●○●○●○
「ない、ない、ないないないない、なぁぁい!!!」
そんなある日の放課後、
それは起こった。
「美雨、何がないんだ?」
友人のかすがが不思議そうに尋ねて来た。
「お姉ちゃんに貰ったネックレス…」
「あぁ、あのいつもつけているやつか。
つけてたんじゃなかったのか?」
「ううん、HRで持ち物検査があったから外してポケットにしまってたんだけど…」
「落とした、か」
「…私、探してくるっ…!!
かすが先に帰ってて!」
「あっ、おいっ!?」
○●○●○●○
「はぁー…ないよぉ…」
思い当たる場所を一通り探してはみたが、ネックレスは一向に見つかる気配がなかった。
誰かに捨てられちゃったかな…
「もう諦めるしかないか…」
お姉ちゃんには謝っておこう…
そう思い、教室へ続く廊下を歩き始めた。
そのとき、
「美雨殿っ!」
不意に自分を呼ぶ声が廊下に響き渡る。
振り返れば、そこにいたのは幸村だった。
「真田くん…?」
「これ、美雨殿のものでござろう?」
真田くんが差し出した手のひらの上には、
間違いない、私の落としたネックレスがキラキラと輝いていた。
「!これ、どこで…」
「2組の教室の前に落ちていたのを見つけたのでござる」
「ありがとう…よかったぁっ…見つかって…!」
ネックレスを受け取ると、思わずギュッと握りしめた。
「真田くん、本当にありがとうっ…!」
「当然のことでござるよ」
そう言って笑う幸村に美雨はつられて笑った。
本当によかったぁ…
真田くんに見つけてもらってなかったら捨てられてたかも…
真田くんに…
……あれ?
「名前…」
「え?」
「私の名前、なんで…
今まで話したり関わったことなんて、一度もないのに…」
「っ!」
私が聞いた途端に真田くんは声を詰まらせた。
共にみるみる顔が真っ赤になっていく。
「そ、それはその、別にえと…」
「それに、ネックレスも
私のだって確信があって持って来てくれたみたいだし…」
ボンッ!!///
効果音をつけるならまさにそんな感じ。
気のせいか湯気が見える。
真田くんの顔はもはや茹でダコの如く真っ赤になり、
もう何も話さなくなってしまった。
いや、話すことができなくなったのか。
…もしかして。
真っ赤な顔で硬直している幸村を目の前にして
美雨はふとそう思った。
自惚れかもしれない、勘違いかもしれない、
けど、けれど
期待してしまう自分がいた。
その沈黙の意味を。
先に待つ、幸せな日々を。
END.