浅き夢見し恋せよ乙女

□愛しい貴方へ
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愛しくて愛しくてたまらない。
貴方に精一杯の愛を込めてーーー。




















「…愛されてないの」
「ぶふっ!!?」








初っ端から突拍子もないことを言い出す美雨に
政宗は飲みかけのお茶を盛大に吹き出した。




「ゴホゴホッ、き、器官に入ったっ…」
「ねえ、政宗。私、愛されていなかったの」
「…今のオレにはNo touchか」
「うn…だいじょうぶ?」
「今、うんって言いかけただろ」




謝る気などさらさらないようだ。













「で、なんだいきなり」
「今言ったばっかりじゃん、私、愛されてないの…」






先ほどのテンションとは打って変わり、しょんぼりしながら美雨はポツリポツリと話し始めた。





美雨の悩みの原因。
それは政宗の保護者であり
彼女の恋人である小十郎のことである。





「この間ね…」



















それは今から二日前のこと。
小十郎と美雨は
いつものように畑仕事をしておりました。




「今年もいい出来だ…」




小十郎は収穫したネギを掲げ、しげしげと眺めた。
その横でそんな小十郎の様子を眺めていた美雨。
いつも通りの平和な時間。
話さなくても幸せを感じてた。






けれど。
ひとつの会話からそれは始まってしまった。













「そーいえば、この間成実ちゃんから聞いたんだけどね、人間って自分にないものを持っている人に惹かれるんだって」
「ほう…」




美雨の言葉に相槌を打ったはものの、小十郎はネギに目を向けたままだ。




「妙に納得しちゃったんだよね。
私と小十郎、お互いに持ってないものばかりじゃない。
だから、惹かれたのかなって。小十郎はさ、私のどこに惹かれたの?」
「よく育ったな…」
「…小十郎聞いてる?」
「あぁ」




答えるがやはり目はこちらに向けられない。




「ねえ小十郎ってば!」
「…何処に惹かれたなど、答えられるか」




やっとこちらを向いた小十郎は静かにそう言った。





「え…」
「俺にはお前の何処が好きだ、など言えない」
「小十郎は、私のこと、好きじゃないの?好きじゃ…なかったの…?」
「いや、そういう意味じゃ「もういい、わかった」





小十郎を背にして美雨は城への道を駆け出していた。


惹かれていたのは、私だけだったんだ…
そう思うと悲しくて涙がとまらない。




それから今日まで美雨は小十郎を避け続けた。
出会ってしまわない為に部屋にこもりつづけた。


それを不思議に思った政宗が美雨をこうして茶に誘い今にいたるわけだ。













「そういうことかよ、どうして続きを聞かなかったんだ?」
「だって、聞くの怖かったんだもん…それ以上聞いたら泣きそうだった」




頭をうなだれる美雨に、政宗はハーっとため息をついた。





どうしてこいつらは、こうも素直じゃないのだろうか。








「…もう一度、聞いてこい」
「え?だから…」
「全部聞いちゃいねえだろ?
聞きもしねえで決め付けるなんざバカのやることだ」
「政宗…」
「聞かなきゃ一生そのままだぜ?」





政宗は全部見通したように言った。
その目は、いつもとは違い、ふざけてなんかいない。





「その先が重要だったかもしれないしな」
「その先?」
「小十郎が話すはずだった話の続きのことだ。美雨、お前、重要な部分聞き逃してじゃねえか?そうだろ?小十郎」
「えっ…」





政宗の視線の先には小十郎の姿があった。





「小十郎っ…」
「いつから、お気づきで…?」
「ah〜…美雨の話を聞き始めた時だな」
「では初めから、と受けとっても?」
「そーゆーことだ」




美雨自身まったく気がついていなかったのに…流石と言うべきか。





三人の間に風がふいた。
冷たくて、でもどこか心地よい優しい風が。







「小十郎、するんだろ?話の続き」



長年の付き合いというのもあり政宗と小十郎は目で会話する。




もちろん美雨には、全く理解することができない。
数秒後、小十郎はハーっと息をついた。




「まったく…貴方には敵わない」
「ha.当たり前だろ?」




何が起きているのかわからず唖然としていた美雨の細い腕を、小十郎の大きな手が掴んだ。




「こじゅ…」
「いくぞ。では政宗様…」
「あぁ、わかってるっつーの」




邪魔なんかしねーよ
そう言いながら
手をヒラヒラさせ二人を見送る政宗。
その背中には少しさびしさが入り混ざっていたように見えた。

















腕を引かれてついたのは小十郎の部屋。
入るのは初めてだった。



「こ、小十郎…?」



ただでさえ強面な小十郎。
無言でいるだけで怖いのに
この静かな空気が一層重圧感を増幅させた。



自分の話を聞かれていたのだ。
呆れられたかもしれない。
本当に嫌われてしまったかもしれない。



小十郎の言葉を聞くのが怖くて美雨は今にも泣きそうな顔をしていた。




小十郎、なんとか言ってよ…
嫌いにならないで…




「こじゅ…「違う」
「え…?」





美雨の声を遮り小十郎は言った。





「俺が言いたかったのは、そんなことじゃねえ。見たかったのは、そんな顔じゃねえっ…」




途端に視界が暗くなって、小十郎の匂いがした。
小十郎に抱きしめられていると気づくのにあまり時間は要さなかった。





「こじゅうろ…?」
「俺がお前を、嫌いになんかなるはずねえだろ…」
「え…」
「俺は、俺が惚れてんのは、お前の何処かなんかじゃねえ、お前の全てに惚れてんだ」
「うそ…」




予想外な言葉に、美雨は唖然とした。
てっきり別れ話かと思っていたのだ。
嘘なんかじゃねえ、小十郎がそう言っているのが聞こえた。






「お前が、何処を好きになったとか聞くから…どう答えりゃいいかわからなくて…」
「そのときに言ってよ、全部だって…本当に、本当に不安だったんだからぁっ!」



悪かったな…



美雨の頭を撫でながら小十郎は微笑む。






どうしよう、うれしくて泣きそうだ。



『重要な部分聞き逃してんじゃねえか?』



政宗が言っていた言葉をふと思い出す。

やっぱり、全部わかってたんだ…
後で政宗はにお礼言わなきゃね



泣くのを堪えて美雨は言った。




「私だって…小十郎の全部が大好きだよっ全部、全部ぜーんぶ!!」




嬉しくて、嬉しくて思わず抱きしめる腕の力を強まる。





好き、好き。
言っても言っても言い足りない。
大好き、大好き。
美雨は小十郎に向けて何度も繰り返した。













ふと顔をあげると何故か小十郎は自分から顔をそらしていた。





「こじゅ?どうしたの?」
「いや、気にするな」
「気になるよ、どうしたのー?」





何度呼んでも小十郎は一向にこちらを見ようとはしない。
美雨は、不思議に思い凝りずに何度も呼び続けていたが、ふとあるものが目に入り、ふっと顔を緩ませてもう何も聞こうとしなかった。







だって、小十郎の顔、耳まで真っ赤に染まっていたの。










「ねえ小十郎」
「なんだ?」
「やっぱ小十郎のこと好きって言ったの取り消し」
「なっ…!?」







だって、好きだけじゃ足りない。
大好きなんかじゃ伝わらない。
愛しくて愛しくてたまらないの。







動揺する小十郎に、私は笑って言った。










「小十郎、愛してる」





END.

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