浅き夢見し恋せよ乙女

□べじたぶる
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私が思いますに、貴方の目に映っているものはふたつ。
ひとつは主である政宗。
もうひとつは―――。























ここは伊達政宗が治める奥州、米沢城。
ここのところ大きな戦もなく、平和すぎて兵士たちは暇を持て余していた。
…まぁ、例外はいるようだが。









「…何してんの、美雨ちゃん…」
「うわあっ!?な、なるみちゃん!!」
「うん、俺 しげさねね」
「……えと、ちょっとね…あはは…」




先程から城内を這いつくばって移動するという(いわゆるほふく前進)奇妙な動きをしていた美雨。
すれ違う女中やら家臣たちからは哀れみの眼差し。


『あぁ、とうとうキちゃったか…』


そんな会話も本人の耳には届いていなかったようだ。

そんな様子を見かねた成実が声をかけ先程の会話に戻る。











「…小十郎なら畑に行ったよ?」
「「…」」

なんの前置きもなく成実は美雨にそう言った。


「な、何言ってんのなるみちゃん!!私は別に小十郎を探してるわけじゃ…あ、あははははー…」
「そう?余計なこと言ってごめんね〜。あと、わざと言ってない?」
「あははは…じゃ、じゃあね〜」
「うん、じゃあね〜小十郎によろしく〜」




美雨は一瞬、体をびくっとさせたが、振り向いてにへらっ、と怪しい笑いをすると
再び不審な動きをしながら何処かへ行ってしまった。
行き先はだいたいわかるのだが。



「わかりやすいね、美雨ちゃんは…」


問題はあっちだなぁ、と成実は最後に付け足した。

















○●○●○





一方その『あっち』は畑を耕したり
水をまいたりと畑仕事に精を出していた。


「ふー…そろそろ休憩するか」



カサッ



「…いい加減でてこい、美雨」
「…やっぱりバレてた?」
「当たり前だ」






小十郎の言葉に茂みから顔を出したのは
先程の不審者、美雨であった。




「…で?何か用か」
「暇」
「即答だな」
「しょーがないじゃん、事実だもん」
「それで俺にどうしろってんだ」
「んとね、鍛錬の相手し「今度な」

「「…」」


「なんで?」
「畑仕事で忙しーんだよ」
「畑優先ですか?」
「当然だ」

「「…」」




さて、ここで冒頭を振り返ります。

私が思いますに、貴方の目に映っているものはふたつ。
ひとつは主である政宗。
もうひとつは…野菜だな、こりゃ。




ッハァ――――。
小十郎に聞こえるくらいふっかーくため息をつくと


「じゃあね、愛しの野菜さんによろしく〜」
「お前なぁ…」


嫌味たらたらな言葉を残して美雨はその場から立ち去ろうとした。





「ったく…なら俺の仕事手伝え。何もしてないよりはマシだろ?」
「!!!いいの!?手伝っていいの!?
野菜に触っただけで『何、勝手に野菜様に触れてんだ、あぁ!?』とか言わない!?」
「…お前は俺の野菜好きをどれほどだと思ってんだ」
「はかりしれない」
「そんな風に見てたのか、お前」
「他にどう見るの?」
「…」












○●○●○





…とゆーわけで(どーゆうわけだ)



「こじゅーろー!これもう取っていいー?」
「あぁ、その辺のはかまわねえぞ」


現在、畑仕事お手伝い中


「この辺の草刈るよー?」
「あぁ…っておい!鎌振り回すな!危なっかしい」
「だーいじょーぶだって!小十郎は心配しすぎ…」



ザク☆




「…ったあああああ゛あ゛!!!!ゆびぃぃぃぃ!!!!(泣」
「言ってるそばから…っ!大丈夫か」
「血ぃぃいいぃ!!」
「おちつけ、そんなに深かぁ切れちゃいねえだろ」
「…ホントだ…グス…」
「お前、戦ん時とは全く違えな…」
「自分でもそう思う…」




とりあえず応急処置。
今度は安全な種まきで仕事続行することにした。
















「ふ〜…まき終わったぁぁ!」
「よかったな、まともにできる仕事があって」
「…ふつー言う?それ」
「言うもんじゃねーのか?」
「…まあいいや、そーいえば小十郎。
これ何の種だったの?」

「ネギだ」

「…ネギって、種だっけ…?」
「あぁ?この前はネギができたぜ?この種で」
「そーいえば、この前夕食にネギが…」

・・・。



再び沈黙。
美雨は思い出す。
小十郎が持ってくる野菜に時々不審な顔(?)が含まれているのを。
その野菜を食べた翌日、城内の半数以上が原因不明の腹痛に襲われたことを…


あれの原因これか――!!??





「?どうしたんだ?」
「へっ?いや、なんでも…」

美雨は持っていた種に視線を移した。


ニヤリ。



!?…今、種と目(?)が合った…?
再び見る気にもなれず、気のせいにしておいた。
(余談だが、この種は政宗が元親に南蛮の土産を送って貰った際、土産物の中に混ざっていたものらしい)














「よし、そろそろ帰るか。夕餉を作んねえとな」
「そ、そうだね!!」
「あそこに置いてある籠持ってきてくれねえか」
「はいはーい」



籠をのぞくと今日とれた野菜がいっぱい。



も、持てるかな、重そー…



しかし、持てなきゃ伊達軍女武将の名がすたる!!
自分に気合をいれながら籠を持った。


ヒョイっ


「あれ?結構軽い」


軽々持ち上げてみせた美雨。
自分の力をわきまえてほしい。




「何ぶつぶつ言ってんだ、置いてくぞ?」
「うそ、待ってーー!!」

















○●○●○



「よう、美雨も一緒に行ってたのか」
「まあね」



城につくと最初に政宗に会った。
溜め込んでいた執務がやっと片付いたらしい。


「頑張りましたね政宗様」
「あぁ、成実がいろいろと教えてくれてな…」


面白そうなことになってるじゃねえか…
政宗はポツリとそうつぶやくと
二人の顔をまじまじと見た。



「?今、なんとおっしゃったのですか?」
「なるみちゃんが…何?」
「いいや、なんでもねえよ。それより夕餉、早く頼むぜ」
「わかりました、では…」



ふたりが横を通り過ぎようとすると
政宗は小十郎の耳元でコソっと言った。



「今日は、えらく機嫌がいいじゃねえか小十郎。口元が緩んでるぜ」
「!!」
「…?小十郎どうかした?」
「いや…」


振り向くと政宗がこちらを見てニヤニヤしている。

あれは何かを企んでいる眼だ。

小十郎は直感的にそう思った。
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