浅き夢見し恋せよ乙女

□現在、逃走中
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「待ってくれhoney〜!!」
「待ってくだされはにー!!」
「誰がハニーだぁぁぁぁ!!!!!」






美雨、一応このお話のヒロイン。
訳あって現在、逃走中。

ことの起こりは今から一時間ほどさかのぼる。


「それで彼氏がね…」
「ふんふん」


女の子っぽく友達とガールトークしながら
六時限目、体育参加中。
女の子っぽくってか元々女の子なのだが、
とりあえずそこはスルーしておこう。

いつも通りに過ぎていく授業。
途中まではよかったのだ、途中までは。


授業も後半、残りわずか。
グラウンドをランニングしている最中にそれは起こった。



「んで、そんとき彼氏が…」
「うんうん」


ガールズトークは今も尚続いていた。
向こうでは男子がサッカーをしている。
向こう…だったはずなのだが。


「「うおらぁぁぁ!!!!」」


どっごーん!!ひゅー…

「へぶっ!!!」


事件は、起きた←




男子が蹴ったであろうサッカーボールが
美雨の顔面に綺麗にクリティカルヒット。
瞬間的に間の抜けた叫びが校庭にこだました。


「ちょ、何、今の!?」

ヒットした衝撃で見事に宙を舞った美雨だったが、流石はヒロイン(?)瞬時復活。
…まぁ、そこはさておき(置いちゃうの!?)
驚くべき点がひとつ。


どうやったらここまで飛んでくるんですか。



問題のボールを蹴ったであろう男子らは、
グランド、と言ってもかなり遠い位置にいる。
しかも、平行な状態で飛んできましたよ?

何者なんですか、一体。


唖然としていると、向こうにあった二つの影がどんどん近づいてきた。
それと共に声のボリュームも最大化していく。


「Shit!オレとしたことがぁぁ!!!」
「申し訳ござらぬぅぅ!!」
「ひぎゃぁぁぁ!!!?」


走ってきた男子二名に突進され
またもや宙に吹っ飛んでいった我らがヒロイン。
合掌。







○●○●○


六時限目も終わり、放課後の保健室。

再び奇跡の生還を果たした美雨は、目の前の男子二人に妙に納得していた。


それもそのはず、二人は学園きってのお騒がせコンビ、伊達政宗と真田幸村その人らだったからである。

二人ならあの距離も飛ばしかねない。
いや、飛ばしたのだが。



「悪かったな、まさか当たると思わなくてよ」
「いいよ、擦り傷だし」
「本当に申し訳ない。某がボールを蹴ったばかりに…」
「真田くん…」


しゅん、とまるで子犬のように落ち込む幸村に美雨は内心きゅんとしていた。


しかし、事態は一変する。


「Ah?聞き捨てならねえな。ボールを蹴ったのはオレだ!you see?」
「なっ!蹴ったのは某でござる!」


いきなりボールを蹴ったのは自分だと、言い争いが始まった。


それほどレアな飛び方をしたのだろうか、あのボール…


ほんわかしていた空気が一気に重くなった。
美雨の本能が脳内で緊急避難信号を発令する。

逃げろ!その場からとにかく逃げろ!!

脳内に浮かぶ指令。
今まで従わずして助かったことなど一度もない。
二人に気づかれないように、唯一の逃げ口である保健室のドアにそーっと足を進める。
神経を手に集中させ、ゆっくりとドアを開けた。
あとは体を通すだけ…

…が、現実は甘くなかった。



「hey美雨」
「はひっ!?」


気づけば左肩に政宗の手。
顔からサーっと血の気がひいた。
が、しかし


「アンタの顔面にボールを当てたのはオレだよな?」
「へ?」


続いて放たれた言葉があまりにも予想に反しすぎていていたが故に、美雨の思考は一時停止した。

それをよそに政宗の意味不発言は続く。


「オレのボールを顔面で受け止めてくれるなんてよ、…アンタ、オレに惚れてんだろ?」
「…はい?」


数秒して一時停止から再生に戻った美雨は大量のはてなを頭上に飛ばした。
頭上一帯が埋まるほどに。


え?え?文章構成おかしくないですか?
話の流れおかしくないですか?


わけがわからないでいると、右肩に手がかけられる。


「美雨殿…」
「!真田く…」
「そなたの顔面にボールを当てたのは某でござろう?」
「…は」


今度は一時停止どころかフリーズしかけた。


「ぶつけたにもかかわらず許してくださるとは…もしや、某のことを…?」


目を輝かせる政宗と
頬を染める幸村。

この人達、頭大丈夫だろうか…


競う部分が究極に間違ってる気がするよ?
人の顔面にボールぶつけたことは誇るもんじゃないよ?
てか、どうしたらそーゆう話に発展するの?


ツッコミどころがありすぎて、美雨は二人の将来がぶっちゃけ不安になった。


「しょうがねえなぁ、そこまで言うなら付き合ってやるぜ my honey」
「なんでそうなるんですか」
「某、必ず幸せにしてみせるでござるよ、まいはにー!」
「もしもーし」


声なんざ聞こえちゃいない。
なんですか、この二人。
脳内お花畑ですか。


そう思っている間にジリジリと近寄ってくる二人。
別の意味で、ものっそい怖い。
この時間に限って、保健室の先生である明智先生は食堂で休憩中。
なんてタイミングだ。

こういうときは…


「こんの、変態どもがぁぁ!!!」


逃げるに限る。


思い切りドアを叩き閉めると、美雨は今までにないくらいのスピードで廊下を駆け抜けた。
火事場の馬鹿力とはまさにこのことだ。


当の二人はと言うと


「ha!鬼ごっこか?捕まえて欲しいなんて困ったkittyだな!」
「某、絶対に捕まえてみせるでござるよ!」


どこまでもおめでたい頭であった。






















○●○●○


数分後、なんとか彼らから逃げ切ったと美雨は一息ついていた。

だが、彼らの野生の勘と運動能力は
ずば抜けているようで、


「はぁはぁ、ここまでくれば大丈…」
「見つけたぜ、kitty!」
「見つけたぜござるぁぁ!!」
「夫じゃないぃぃ!!」

あっという間に見つかってしまったのである。
そして、冒頭に至る。



「寄ってくんなぁぁぁ!!」
「照れるなハニー!」
「照れた顔もかわいいでござるぁぁ!」


今だに続く追いかけっこ。
別名、死へのカウントダウン
(死にはしないが彼女の今の状況には一番しっくりくる)


普通の女子高生である美雨は、
最早体力の限界にきていた。
それに反して後ろをついてくる変態二人の走る速度は、どんどん早くなっている気がする。
怖るべし変態パワー。



「ハニー!逃げるならオレの腕の中に逃げ込んできな!come on!!」
「美雨殿ぉ!ごーとぅーへぶんでござるぁぁぁ!!」
「アンタらアタシを殺す気か…あぁぁ!?」



体力の限界とツッコミ疲れで、とうとう足がもつれ、美雨は床に思い切りスライディングをかました。

今なら野球選手にも勝てる気がする…


現実逃避したが無駄だ。
顔をあげれば目の前には、恐怖の元凶らが勝ち誇ったように立っていた。




「オレの勝ちだな、ハニー」
「某、楽しかったでござる♪」
「だ、誰か…!」


必死の抵抗で助けを叫ぶが、放課後というのもあり、静かな廊下に虚しく響くだけであった。
額から冷汗が流れる。


「どうした?もっと遊ぼうぜ」
「遊ぼうでござるー♪」


近づいてくる二人からは怪しいオーラが放たれている。





もうダメだ…
アタシ終わった…



死ぬわけでもないのに頭の中で流れる走馬灯。
来世では平和に暮らしたいです…
そう思ったときだった。



「何してんだ、テメェら…」
「「「!!!」」」



彼らの後方から響いたドスの効いた低い声。
振り返って最初に反応を示したのは政宗だ。



「こっ、小十郎…!?」


そこに立っていたのは
政宗の保護者的存在であり、
私達のひとつ上の先輩である片倉小十郎だった。


「何を、なさっているのですか…?」
「あ、いや、鬼ごっこだ。鬼ごっこ!」


初めに聞こえた少し乱暴な重低音の影はどこにもなく、そこにはいつもの口調で話す小十郎がいたが、政宗の動揺と震えはおさまっていない。

覆い被さろうとしているこの状態の
どこが鬼ごっこだ。


政宗は冷静を装っているつもりのようだが
全く装えていない。
幸村に至っては恐怖からか
無言で固まってしまっている。



「鬼ごっこですか。懐かしいですね、政宗様も昔よくやっておられた…」
「そーなんだよ!懐かしくて!そうそうそう!」


上手く流せると思ったのか、
政宗は小十郎の言葉に便乗し
大袈裟なくらい首を大きく縦に振った。


その姿が某県の郷土土産、赤べこに見えたことは口に出さないでおこう…
あ、赤より青だな、顔色的に…
いやいやいや無心!無心!!


「ですが政宗様、鬼ごっことは鬼は一人が一般的では?
しかも男二人が女一人を追うなど無謀すぎやしませんか?」


一番痛いとこをついてきた小十郎。
その笑顔が逆に怖い。



「そっ、それはな…そう!
コイツが一人で逃げたいって言ったからだ!」

いきなり自分を指さしてきた政宗。


アタシそんなこと言った憶えないんですけどぉぉ!?


すると小十郎は今まで見向きもしなかった美雨に目を向けた。



何、何、何!?
恐いよ、片倉さん!
ちょっとその笑顔やめて!!泣



だが小十郎は美雨には何も言わず
政宗に向きを変えるとにっこりと笑った。
政宗もぎこちなくヘラっと笑った。

だが、政宗と幸村の恐怖はこれから始まるに
他ならなかった。



「では政宗様、今から小十郎としましょうか」
「は?」
「真田、テメェもだ。鬼は小十郎がしますので」
「え?え?」


予想外の言葉に二人は戸惑った。
しかし、そんなことはお構いなしに小十郎は
話を進めていく。
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