浅き夢見し恋せよ乙女

□日向に君の温もり
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こんな日の貴方はとても機嫌がよい。
だから私も嬉しくなる。





とある暖かな日。
見上げた空には雲ひとつなく、
やわらかな光が地上へと降り注ぐ。

季節は春。

陽の光は暖かく通り抜けていく風は心地よい。
縁側で一人ひなたぼっこをしていた美雨はウトウトと今にも眠ってしまいそうだった。


幸村様、早くいらっしゃらないかな…


今頃、道場で鍛錬でもしているであろう幸村の姿を思い浮かべると、幸村を待つこの時間は一層楽しいものになった。





ここに住むようになって半月ほど経つ。
山中で足を怪我し動けなくなっていた私を幸村様が助けてくださったのが始まりだった。


あの頃の私には家族などなく、
帰る場所もなかった。

人に優しくしてもらったのは初めてで、ずっとここにいたいなんて思ってしまった。


足の怪我が回復していくのが
とても嫌だった。
治ってしまえばまた一人。
込み上げてくるのは喜びではなく
悲しみで。




けれど、足が完治した日。
どうしようもない悲しみでいっぱいだった私に、
幸村様は言いました。

「お前の居場所はここだ」

と。



頭を優しく撫でてくれたあの温かい手。
向けてくれたひだまりのような笑顔。
あの時の嬉しさは今でも忘れはしない。


独りだった私に居場所ができた。
家族のような大切な人たちができた。

私を光の中へ導いてくれた幸村様。
あの方に対する感謝ははかりしれません。
そして、いつのまにか、
私の中には新しい感情が生まれていました。
好き。
今まで感じたことのない、そんな感情。


でも、伝えられるはずないのです。
届くはずないのです。



私と幸村様には、違いがありすぎるから。



だから、もういいのです。
一生伝えることができなくても、
一生伝わることがなくても、
貴方のそばに、いることができるのなら…





○●○●○


気づけば日は真上まで昇っていた。
そろそろ幸村の鍛錬も終わるころ。


たまには待たずに、お迎えに行ってみましょうか…


そう思い立ち上がろうとしたとき、


「美雨!ここにいたでござるか」


不意に、聞きなれた優しい声が響く。
声がした方を振り向くと、そこにはやはり幸村が立っていた。


幸村様…!


「探したんでござるよ?」


そう言いながら幸村は美雨の隣に座った。



見上げた横顔は
鍛錬を終えたばかりのためか、それともずっと自分を探し回ってくれていたためか
少しほてっている。


「…今日はいい天気でござるなぁ…」


射し込んでくる温かい光に目を細めながら
幸村は空を仰いだ。


その表情はいつも以上に優しげでやわらかくて、
そんな幸村を見ることが美雨の一番の幸せだった。


「このような平和な日が、ずっと続けばいいのだがな…」


幸村の手が美雨の頭を撫でた。
あの日のような、温かくて、優しい手。



私も、願っています。
こんな日が、このまま、ずっと続けばいいと…


あたたかい日向に心地よい風が吹く。



「美雨、お前は今、幸せでござるか…?」


幸村が独り言のように呟いた。



もちろんです。
貴方がこうして隣にいて下さるだけで、私は幸せなんです。
貴方がいて、私は初めて幸せを感じることが出来るのです。
幸村様…




幸村の呟きに答えようと
美雨は一声「にゃあ」とないた。




END.

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