浅き夢見し恋せよ乙女

□先生あのね、
1ページ/1ページ





「やっぱりここにいたか」




誰もいない屋上。
一人寝転がって日向ぼっこしていたら、聞き慣れた低い声が私を見下ろした。




「あ、見つかった」

「見つかったじゃねえ馬鹿が。また授業サボりやがって」

「先生だって今サボってんじゃん」

「馬鹿。今の時間に担当授業が入ってねえんだよ」




寝転がった私の横に、数学教師の片倉先生は腰をおろしいつものように溜め息をついた。




「こんなに授業サボってる割に成績は優秀だから不思議だな」

「んふふ〜、ギャップあるでしょ?」

「自信満々に言うことじゃねえよ」

「っ痛ぁっ!!」




先生は私の額にお得意のデコピンを食らわすとおかしげに笑う。
それを見て私はまた複雑な気持ちになるのだ。



実を言うと私はそんな不真面目な部類ではない。
むしろ逆ではないだろうか。
テスト期間のみならず、家に帰れば勉強ばかり。
成績が良かったら、先生が笑顔で褒めてくれるから。

そして別に授業が嫌だからサボっているわけじゃない。
どちらかと言えば好きだと思う。
でも、こうすれば、先生が探しにきてくれると思ったから。


全部全部、先生の気を引くため。
私のことを、見て欲しいから。


こんな手を使うなんて自分でも子供だなって思うけど、でも、それしか私には方法がないの。




「…ほんと、ダメだな私は…」

「ん?何か悩みでもあるのか?」




私の小さな呟きに、先生は怪訝そうに首を傾げた。




「悩み、ねえ。…なくもない」

「なら言ってみろ。出来る限り力になってやるぜ」

「…馬鹿にするからやだ。それに、」




力になんて、なれるはずないじゃん。




「馬鹿になんかしねえし、力になれるかは俺が決めることだろうが」

「…だからだよ…」




先生はきっと馬鹿にしない。
力にだってなってくれる。




だから、辛いんだよ。




「あーあ、留年でもしよっかなー…」

「あ?なに馬鹿なこと言ってやがる」

「だって、そしたら…」

「そしたら?」

「…なんでもない」




そしたら、また一年だけ先生のそばに居れるから。




なんて、言えるはずもない。




先生あのね、
(わかってるよ、伝わらないことくらい)

END.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ