皇族の騎士

□騎士の茶番
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「…アスナの様子がおかしい?」










ルルーシュが聞き返すと、スイがうん、と落ち込んだ様子で頷いた。




「この間の当主会議が終わってから、なんか様子がね、何か、殺気立ってる…っていうか。
最近、仕事場に閉じこもってしまったり、研究室から出てこなかったりとかもあって、さ」




ここ数日、姉アスナの様子がおかしい。
それがスイのもっぱらの悩みであった。
元々、あまり外に出たがらない人であったのは知っていたが…
最近は病的にまで、外に出ることを拒み、仕事と研究にのみ時間を費やしている。
そのおかげで、先2か月ほどまでの書類仕事が終わり、学界にも新提案がなされたらしい。
その成果を喜ぶのは研究機関等で。








「アスナの病的なまでの仕事振りはいつも通りだと、言いたいが…」
「そんなんじゃないんだって…もう、何か1秒でも時間が惜しいみたいに」







まるで、何か。
これから危険なことをしに行くから、
悔いがないように、と言わんばかりで。
何か、嫌なことが起きそうな気がして怖い。








「兄上はなんていってるんだ、相談したんだろう?」
「…言ったら、調べてはみるって言ってた。
何か、シュナ兄の方も最近忙しいみたい、まるで姉さんが忙しくなるのと一緒に今まで水面下だった外交問題が浮上してきてるみたいで」








あの様子では、すぐに調べには入れないだろう。
スイは不安で仕方がなかった。
まるで、アスナが遠くへ消えてしまいそうな…そんな気がして。














「…アスナ、君」
「コムイか、今仕事中だ、後にしてくれ」
「それは2か月後の仕事だろう!?今、焦ってするようなことじゃ…」





コムイの言葉を遮るような、アスナの視線。
それは冷たく、氷のようで。
ぐっ、と言葉を噤んだ。
書類へ視線を戻すアスナを見てコムイが悲しそうに顔をゆがめる。

あの当主会議の後、
ラーズがアスナに渡したのはおそらくアスナの過去、空白の1か月に関係する何かだ。
だから、彼女は今、全てを終わらせるためだけに仕事をしているのだろう。











「…アスナ君」
「何だ」
「言われていた通り、アラストルの整備が完了したよ」
「ご苦労」

「……アスナ君」
「何だ」
「ボクは君の支えにはなれないけれど、いつだって君を信じているから」
「………」
「だから、君もボク達を信じてほしい」












コムイの言葉にアスナは何も答えなかった。
「じゃ、ボクは仕事に戻るよ」
コムイの足音が遠ざかる。
ドアが閉まる音がして、アスナは息を吐き出した。

これは、エゴだ。

やりきったところで、だれも救われない。
むしろ、自分が傷つくだけなのに。
わかっている、はずなのに。













「……損な性格」














自嘲気味に呟かれた言葉は、だれもいない執務室に溶けて消えた。















「お忙しいって聞いたんですけど、シュナイゼル殿下」















突然宰相府に呼び出されたアスナは研究着でやってきた。
シュナイゼルは大量の書類やデータに囲まれている。






「忙しいね、君もだろう?」
「…えぇ、まぁ」
「でも、君の忙しさは今急いでやる必要のないことをやっているからだと聞いているが?」






シュナイゼルの目が冷たくアスナを捉えた。
最近は本来の仕事であるはずの警護の仕事ですら部下たちにまかせっきりだ。
現に今だって、シュナイゼルの護衛にはガリオンが入っている。









「…まぁ、ちょっと休暇が欲しくて」
「この間もらって旅行に行ったばかりだけれど?」
「行かなきゃ、いけないところができて」









アスナの目が伏せられる。
















「ここへ、かい?」

















シュナイゼルが見せた書類に、アスナの顔色が変わった。









「中東の忘れ去られた施設だ。
だが、使用痕が比較的新しく、地下に設備があるのではないかと懸念されている。
しかも、ここは以前にも使われていた可能性が高い。
アスナがいなくなった、あの1か月。
確か、君は……中東のブリタニア軍基地で拾われたんだったね」

「誰が…!!」

「私の質問が先だよ、アスナ」

「誰が、貴方にそれを渡したんですか…!?」








アスナは顔色が悪い。
今までシュナイゼルのいる机からは離れていたというのに、近づいてきて机をたたいた。
その眼は恐れている。









「アスナ、私は君に過去のすべてを今、離せとは言わないよ」









シュナイゼルの手が、アスナに触れる。












「ただ、今の君は何かに執着しすぎて、忘れてしまっているようにしか思えない」












その眼は真剣で。
アスナは押し黙った。







「私は君にかつて、自分を大切にするように言ったはずだよ。
君が君自身を大切にしなければ、君の優しさに救われた人間は何一つうれしくない」







それは、わかっているつもりだ。













「第2皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアの名を持って、本日只今より君は謹慎処分とする。
……今の君に、私は復讐をさせたくはないんだ」













―――頼むから。

―――これ以上、君自身で、

―――君を傷つけようとしないで。











「兄上!!アスナが謹慎とはどういうことですか…!?」











コーネリアがドアをけたたましく開ける。
王宮内には、すぐにその話は知れわたった。
シュナイゼルは紅茶の入ったカップをソーサーの上に置いた。








「そのままの意味だよ。
アスナにはクラウン宮での謹慎処分を言い渡した、もちろん執務や研究・訓練の一切を禁止してある。
監視役としてナイトオブラウンズから、3人ほどつけてもらったよ」
「何故です!!?アスナは何も…」
「何かする前に、対処する必要があったんだよ」








あのままじゃ、アスナは。
シュナイゼルはカップの中の紅茶に映りこむ自分を見た。
なんて、情けない顔をしているのか。








「…アスナに何があったんですか」









コーネリアが不安そうに聞いてきた。
彼女もまた、アスナを思う一人で、共に過ごしてきた家族のようなものだ。
シュナイゼルは首を横に振った。










「わからないんだ、私も」
「……兄上」
「アスナが話してくれるまで、私は待つ覚悟はできているよ。
しかし…今のアスナは見ていられない」










自分自身に爪を立てて、追い詰めて。
まるで、忘れるなと、
この痛みを、傷を決して忘れてはならないと言い聞かせているように。


















「私は、ただ、アスナに笑ってほしいだけなのに」



















どうして、この思いは、通じないのだろう。

手を伸ばせば、
抱きしめようとすればするほど、
アスナが傷ついていくようで怖い。
















(……まぁ、仕方ないか)
















アスナは嗤った。
いや、むしろよかった。
彼がこうしてくれたことで、少しだけ頭が冷えてきた気がする。









「変わらないな…シュナは」









いや、少し腹黒く、なったかな。
笑みが零れ落ちる。
涙が、伝って落ちる。

















「ごめん…っ、」

















誰に向かって、謝ってるのか、

自分ですらわからない。




















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