皇族の騎士

□騎士と天子
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――――Clown皇族護送旗艦ルシフェル。
この旗艦が使われるのは随分と久しぶりだ。
本来ならそれぞれ旗艦を持っていることの多い皇族方を護送するために使われる。
Clown専用の航空艦には珍しくClownのオペレーターたちを含め多くの搭乗員によって動かされていた。
メリリムの3倍近い大きさのルシフェルはアスナが大公爵となってから動かしたのは3回だ。










「うぁ…」










スイは皇族専用ラウンジにいた。
このルシフェルは普通の航空艦とは異なり皇族を護送するためのものなので、皇族に休んでもらうスペースも充実している。
(もちろん、戦闘艦としても類を見ない強さでKMFの搭載量も多いが)
スイがClownになってからは動いたこともない航空艦に感嘆を漏らす。


今日、護送されているのはシュナイゼル、ユーフェミア、コーネリア、ルルーシュ、ナナリーだ。
クロヴィスは別枠の公務で今回は来ていない。
そして、メインの護送となっているのが…第1皇子オデュッセウスだ。
こうしたメンバーがそろって空の旅だなんてめったにないだろう。
それぞれの騎士をはじめ、ナイトオブスリーのジノ、ナイトオブシックスアーニャもラウンジに集まっていた。











「アスナ、兄上は?」
「個室でお休みになっておられます。…にしても、中華連邦と政略結婚、とは急ですね」












アスナがシュナイゼルの前にワインの入ったグラスを置く。
「ありがとう」とシュナイゼルはそのグラスを手に取って椅子へ深く腰掛ける。
アスナはちらりと時計を確認する。
予定時刻ではもう中華連邦上空に着いただろう。


―――オデュッセウスに政略結婚の話が出てきたのは1週間前。
本来ならもっと前からそういった話を進めるはずなのに。
アスナの耳に入ってきたのは本当に出発ギリギリになってからだった。
Clownの護衛が必要だという割にはほとんどの日程が知らされず、
護衛対象の具体的な人数も3日前の知らされるなど何もかも前代未聞だ。
皇帝に掛け合おうかとも思ったが、シュナイゼルに止められこうしてここにいる。











「そう怖い顔をしないで、アスナ」
「してますね」
「あ、認めるんだね、そこは」












アスナはふぅとため息をついた。
今回、こうして連れ出される身にもなってほしいものだ。
それにアスナの耳にはもう一つ嫌な情報が入っている。


「(貴方を含めたここにいる皇族全員の命が狙われているというのに……)」


アスナがシュナイゼルの耳に唇を寄せて密やかに言った。
このことはシュナイゼル、アスナ、同行しているカノンでとどめている。
コーネリアには伝えたもいいかと思ったが、アスナはここでとどめることにした。
余計に情報を広げれば、相手を警戒させるだけだ。
騎士たちには中華連邦についてから説明すればいい。










「わかっているよ、心配性だねアスナは」
「………俺がついてるからって、安心しきってないですか」
「信頼しているといってくれないかい?」










すると、アスナのインカムにざざっと一瞬ノイズが入った。
「総督、」聞こえて来るコムイの声にアスナは姿勢を正した。
全員がその様子に悟った。














「到着しました」














航空艦の扉が大きく開き、シュナイゼルが一歩踏み出した。
アスナはカノンと共にその後ろに控える。
緊張した表情は相手に悟られる。
あくまでもお祝いに来た、騎士を装っていなければならない。


中華連邦は世界で最大の人口を誇る連邦国家だ。
しかし、その体制はもはや崩壊にも近い。
中華連邦のトップに立つのは12歳の少女天子。
そして、その周りに立つのは大宦官と呼ばれる官僚たち。
天子を食い物にする彼らのせいで、人民は貧困に喘いでいた。






(……あれが、大宦官、ねぇ)






シュナイゼルとにこやかに対談する彼ら。
オデュッセウスはいい具合に利用されているのだ、今回の件は。
凡庸なオデュッセウスを使い、ブリタニアに取り入ろうとしている。
国を売ろうとしているのだ、この男たちは。








「紹介します、私の妻で…今回の私たちの警護全般を指揮する」
「アスナ=シュヘン=ガル=クラウンです」
「おお、それはそれは。
それではこちらは武官の一人で護衛を担当することになる…」
「黎星刻です」








目につく黒髪。
その男は穏やかに、とは決して言えないぎこちない笑みを浮かべてアスナに手を差し出した。
「よろしく」とアスナがその手を握る。
星刻は目を見開いた。











(しっかし…広いなぁ)












さっそくアスナたちは朱禁城に案内された。
アスナは朱禁城の地図を眺めながら、警備の配置や結婚式の行われる教会の位置までの通路などを確認する。
そして、今夜行われる祝賀パーティーの見取り図も。






(しっかし…ホント死角の多い城だな)






警備の配置こそ多いが、城の構造自体がそうっているためか警備に穴が出る。
アスナはどうしたものか、と考えていると「姉様」とスイが入ってきた。











「Clownとかは言われた通りに配置しておいたよ」
「ありがとう。あとは各選任騎士はそれぞれの殿下に。あぁ、スイお前はナナリー殿下も頼む」
「はーい」










スイの適当な返事に、アスナはふぅと息を吐き出した。
騎士たちにも、説明しなきゃならないというのに。
やることが山積み過ぎて。
アスナは立ち上がった。
新婦にも挨拶してこなければ。
本来なら会えないのだが、警護を担当するものとして特別にお会いできるらしい。
こういう時に皇族選任騎士の名前は存分に役に立つ。










(…第一、誰がこの婚約を組んだんだろうな)










考えれば、考える程謎だらけだ。
まぁ、おそらくは皇室ゆかりの誰かなのだろうけれど。
オデュッセウス殿下を使うなんて、いったい誰がと考える。
第一、こういった外交事でシュナイゼルの耳に入らないなんておかしすぎる。
しかめっ面のまま歩いていると、目的の部屋近くに来てアスナは表情を和らげる。
ごほん、と一度咳払いをして相手を刺激しないように鋭い雰囲気はすべて取り払う。













「失礼いたします、天子様」














他には誰もいない空間。
アスナの声にびくりと肩を震わせたのは、とても小さな少女だった。
朱禁城の主にして、この中華連邦のトップ―――天子と呼ばれる少女はとても幼い。

アスナは正直驚いた。







「私は、神聖ブリタニア帝国皇族選任騎士を務めておりますアスナ=シュヘン=ガル=クラウンと申します。
天子様にお目通り叶いましたこと厚く御礼申し上げます」







定型文通りのあいさつ。
その間も彼女は震えていた。
当たり前だ。
正直なことを言えばオデュッセウス殿下はもう30代。
天子様は12歳。
年齢差を考えるなら犯罪並だ。













「天子様」
「は、はい」














アスナは跪いたままにこりと微笑みかけた。


















「よろしければ、俺を天子様の騎士として天子様を守らせてはいただけないでしょうか」


















――――せめて、少女の心の癒しに。



















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