皇族の騎士

□騎士たる条件
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あのテロ事件から1週間…













(これが、帝国最強の12騎士、ナイトオブラウンズ…!!)













スイは姉と共に、
ナイトオブラウンズの拠点であるインバル宮にやってきていた。
もちろん、アスナが呼ばれた理由は1週間前のテロでユーフェミアがなぜ巻き込まれたかという状況説明を再度求められたからだ。
Clownは独立した権限を持つ特殊機関であり、特務局からも離れた皇族直属特務部隊。
こうして、本来なら出向く義務すらないのだが…
Clownの位置づけは、ナイトオブサーティーン、不吉・不幸の象徴でありながらも、本来のない数字にその特殊性を裏付けていた。












「さて、再度説明してもらおうか」
「前にも言いましたが、ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿…私が1週間前に上げた報告書、あれがすべてだ」












ナイトオブワンを前にしても物怖じしない姉の姿にスイは冷や汗をかいた。
帝国最強の騎士、かつて自分たちの父と共にシャルル皇帝陛下を守ったという男。
その実力は内外に知れ渡っている。
もちろん、他のラウンズだってそうだ。
それぞれがそれぞれの武勲、異名を持ち、特別視される騎士たち。

まぁ、もちろん自分がそれに劣るとは決して思っていないスイだが。













「お前が警備をザルにするとは思えん。
しかし、ユーフェミア殿下がビルを抜け出したのには何かあるんじゃないのか」
「申し上げますが、俺は皇族の皆様の為になることをするのが仕事です。
決してそれが警備や、護衛だけとは限りません」












命を守ることは大事だが。
アスナは静かにビスマルクを見据えた。
全く引く様子のないアスナに、ビスマルクはかつての戦友の姿を思い浮かべる。
詭弁、方便を考えさせたらあの男の右に出る男はいなかった。







「…本当に父親に似てきたな」







ぼそりと呟かれた言葉に、アスナは片眉を上げた。
何よりも気に入らない言葉だったらしい。
ビスマルクは隣に座るナイトオブサーティーンの殺気にびくりと肩を震わせた。



「誰と、誰が、ですかね。ヴァルトシュタイン卿?」



にっこり、と効果音がつくほどの笑みだが、笑っていない。
さしものスイも、一歩後ずさった。
目が微塵も笑っていない。
他のラウンズですら、冷ややかにさせるような笑みに全員が凍りつく。
ビスマルクはごほん、と咳払いし、「そのことはさておき」と話を変える。












「ユーフェミア皇女殿下の騎士問題は火急だな」












今回の件然り、これまでの行動然り。
アスナ一人では手におえない問題となりつつある。








「専任騎士って決められないんですか?」








ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグが疑問を口にする。
これを決めれば全く問題はない。
そう言いたげな表情だが、アスナとビスマルク、スイが同時にため息をついた。














「「「素直に決めてくれる人だったらな」」」
















3人の声が、はっきりと揃った。









「スイ、この間のお菓子、とてもおいしかった」
「あ、ホント?アーニャ!」









会議が一時休憩となると、ナイトオブシックス、アーニャ・アームストレイムとスイは仲良く談笑しだした。
やはり、年が近いということもあるのだろう。
アーニャは14歳で、ナナリーと同い年だ。
よく話しているのも見かける。
そういった縁からか、スイともとても仲がいいのだ。

アスナはそんなかわいらしい二人を眺めて、ふふと笑みをこぼす。
本当に、"妹"達を眺めているのは癒されるな、と思う。












「"妹"達には平穏に暮らしてほしいのだけれどね」
「そのための騎士選定、だろう」













ビスマルクがアスナに資料を差し出した。
顔写真と、経歴が載っている資料だ。
恐らくはユーフェミアの騎士候補たち。









「ギルフォードか、作ったの」
「みたいだ。皇族の騎士選定特権はナイトオブサーティーンであるお前しかない。
もちろん、最終決定は殿下ではあるが…推挙についてお前の意見が欲しいと」









ふーんと、興味なさげにページをめくる。
貴族たち、高級軍人たちの名前が挙がっているが。
アスナはどれも信用する気にはなれない。
確かに絶対王政であるブリタニア帝国に置いて皇族の立場はとてつもなく大きい。
それは事実だ。
しかし、影で皇族を悪く言っている人間だって少なくはない。
意外と表立っては親皇族という顔をしている奴が多いのだ。








「姉様はどうするの?」









インバル宮を出た時にはもう、空は黒くなりつつあった。
スイは姉の隣を歩きながら、窺うように聞いた。
ナイトオブサーティーンにはナイトオブワンと等しく特権が与えられる。
エリアを一つもらえるとかではないが、皇族の騎士選定時、護衛時、皇族への反逆者の処罰について特権が与えられる。
今回のことは、その特権にかかわることだ。










「一人、ふさわしいなと思うような奴はいるんだがね」
「もしかして、」
「お前が思い浮かべている人と、俺の思い浮かべてる奴は一緒だな、おそらく」










アスナはふっと笑った。
思い浮かべるのは一人だ。
恐らくは、彼なら騎士としてふさわしい人間になってくれるはずだ。
スイも「うん、納得」と頷いた。










「俺は騎士たる人間には、命を懸ける覚悟を持ってもらいたいのさ。
ギルフォード然り、お前然り、ナイトオブラウンズ然り、一つの物に己がすべてを懸けられるような奴でなければ、騎士は務まらない」










真剣なまなざしで、アスナは言った。
その意味はとてつもなく重い。
騎士であることの難しさ、忠誠という言葉の裏の利害関係。
まさしく、アスナはそれを経験した上で今、この場に立っている。
ルルーシュやスイのように打算や、利害関係なしという関係も珍しいものだ。












「ユフィには…そういった思いをさせたくないんだ。
ユフィが自ら、自分を預けることができて、騎士もユフィの為にすべてを懸けられる奴でなければならないんだ」













アスナが皇族を呼び捨てや、愛称で呼ぶときは兄弟として見ている時。
いとことして、皇族の傍に居続けたアスナには二つの顔がある。
騎士として皇族を守る者の顔、
もう一つは皇族の兄弟としての顔。
ユフィやルルーシュ、ナナリーなど、アスナとは10以上年の離れた子たちにはアスナは特別可愛がっているかもしれない。
妹や、弟として。














「まぁ、ルルやスイ。ギルやコーネリアのようになれるかと言われれば、また別問題だがな」














アスナはそういうと手を上げて、「俺は宰相府に用事があるから」と背を向けた。
スイはその背中をじっと見つめて、ふぅとため息をついた。




















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