皇族の騎士

□救出の騎士
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スザクが各階を制圧するのに、時間はかからなかった。
日本時代から随分と鍛えられてきている。
今だって、それなりにトレーニングは続けてきたつもりだ。
簡単に負けるつもりはない。







「後、もう少し…か」







たぶん、もう元々の指令室となっているモニター室にはいない。
テレビ放送するため、屋上へ向かっているはずだ。
ユーフェミアを連れて。
彼女が皇女だっただなんて、知らなかった。
でも、それでも。








「……………っ」








屋上から、街を見下ろした時、ユーフェミアの心に一瞬の恐怖がよぎった。
しかし、それでも、それを悟らぬように表情は変えない。
皇族たる者、いつでも民を安心させられるようでなければならない。
いつも、姉コーネリアは言っていた。
だから、私も。ユーフェミアは小さく息を吐き出した。








「さぁ!!!ブリタニア皇帝よ!
自分の娘を殺されたくなければ、我々の要求をのめ!!

さもなければ…」







ユーフェミアの背中に、銃口が当てられる。
感じたこともないごつごつとした堅い感触にユーフェミアはごくりと息をのんだ。
これ以上、押されれば…確実にここから地上にまっさかさまだ。
下には、何かあるような気配はない。

じりじりと強まる圧力。
このままでは、そう思った時だった。
















「待て!!!!!!」


















――――騎士のように、彼は現れた。
ドアが急に開かれ、その声が聞こえてきたかと思えばスザクが走って向かってきた。











「スザクっ!!!」











ユーフェミアがスザクに手を伸ばす。
スザクはその手をつかむように、手を伸ばしてユーフェミアに銃を向けていた男を蹴り飛ばした。
幸いにもビルから落ちることのなかったその男は何が起こったのかわからないというように目を見開いていた。
そして、リーダーの男もひどく動揺し、狼狽していた。







「な、な…っ!!」
「もうやめろ、この下にももう誰もいない」







僕が気絶させてきた。
とスザクはユーフェミアを自分の後ろに回した。
リーダーの男は拳を震わせていた。
自分の計画が、綿密に建てたテロがたった一人に崩されるなんて…!!
屈辱にも等しい、感覚だった。
そして、こうなった人間ほどどうなるかわからないものだ。
何か、モーターの音を立てて、
ビルの側面からKMFの量産機型が大量に出てきた。










「すべて壊してしまえ!!!!」











男がそういって叫んだのは、
アスナとスイはKMFの中で聞いていた。









「って言ってますけど、お姉様ー」
「総督って呼べって言ってるだろ」











アスナは第8世代KMFアラストルを起動させるとインカムを耳につける。

「カタパルト、スタンバイ」

アスナが小さくつぶやくと、管制室から「了解、カタパルトスタンバイ」とコムイの声が聞こえてきた。
スイもその声に、にっと笑って、待機する。












「アスナ元帥、スイ少佐、ミッションの確認をします。
この航空艦メリリムから射出後、スイ少佐が下から、アスナ元帥が上から敵KMFを殲滅、破壊せよ」
「「了解」」
「尚、屋上には敵リーダー、ユーフェミア殿下、枢木スザクの姿が確認されています。
そのため、アスナ元帥、ハドロン砲については宰相の許可が必要かと」
「必要ない、あんなまがい物の量産機如きにこのアラストルが劣ると思ってるのか」












アスナがにっと笑った。
そして、カタパルトにアラストル、シュムハザがどちらもセットされる。
両翼が開くと、アスナとスイの視界がオールクリアとなる。












「カタパルトセット完了。
コントロール権をパイロットへ移行」

「了解。アラストルコントロール権をアスナへ移行」
「同じく、シュムハザコントロール権をスイへ移行」

「両機発艦準備完了。
発艦まで3、2、1……
アラストル、シュムハザ、発艦!!!」













一気に2機同時に発艦される。
勢いよく射出した2機は背中についている黒い翼を広げる。
エナジーウィングを展開させると、そのままアスナは上昇、スイは下降した。











「…まさか、こんなものまで」
「俺達が起こそうとしてるのは、革命だ!!これくらいの準備はしてるさ!!」
「一般人まで巻き込む気か!?」













スザクはぎりっと歯を食いしばった。
生身の自分に一体何ができるというんだ。
KMF相手に、戦えるなんて到底思えない。
ユーフェミアが不安そうに、スザクの服をつかんだ。
自分たちを包囲するKMF。
このままではこのビルにいる一般人、そして、この街に住む人たちですら巻き込んでしまう。















「物事の移り変わりには痛みが必要なんだよ!!!」















犠牲なんて、何事にもつきものだ。
そういわんばかりの男の態度に、スザクの怒りは頂点だった。
男は手を上げた。
全てのKMFの銃口がスザクとユーフェミアへと向いた。




















「撃てぇぇぇえええ!!!」




















銃口は…

火を噴くことはなかった。










「ったく、困るんだよな。こういうの」











降り注ぐ、赤い光。
全てのKMFの銃器だけを的確に破壊するその光の元をみんなが追った。
太陽を背に、黒い翼を開く、漆黒の機体。
ユーフェミアは顔を綻ばせた。







「―――――アスナっ!!!!」








そして、手を伸ばす。
アスナはコックピットの中からふっと、その様子に笑った。
敵にKMFが全員、アスナの方を見る。
確かにまさかと言った感じだろう。




「今まで反応なんて…!!」
「アラストルとシュムハザは俺が独自開発したステルス機能付きでな。
そんな遅れた量産機じゃ、簡単には見つけられないさ」




アスナはふっと笑う。
そして、第2射のため銃を敵に向けた。
敵はそれを止めようとアラストルに向かっていこうとするが…












「はいはい〜、スイちゃんが通りますよー、っと」













青い光を放つ鎌が無数のKMFを切り刻んでゆく。
スイは楽しそうに鎌を振り回す。








「おおう…スイ、やりすぎだ」
「いいじゃん、別にー」








楽しそうなのはいいが、やられすぎても困るな。
アラストルの背中の剣を抜いた。
その大きな剣は赤い光を帯びる。
















「降伏しろ、今なら命は見逃してやる」
















――――そのあとにどうなるかなんて、俺は知らんがな。


ほくそ笑んでいるであろう、宰相の顔を思い浮かべて言った。
アスナの声に、男は後ずさりし、尻餅をついた。




「だ…堕天騎士…?なんで、こんなところに……!!」




まさか、出てくるとは思わなかったのだろう。
アラストル、
神話の中の神の一人で、かつては天使だったが地に堕ち、堕天として地獄の死刑執行人だったという。
そんな落ちた神がここにいた。












「お前のKMFはこれで全てだろう?
なら、俺の妹にかかれあ5分もかからず殲滅できる。
降伏するなら、今だ。

これは警告ではない、命令だ!」















アスナの言葉に、男はもう何もできなかった。
そして、アラストルをゆっくりと屋上に着地させ、跪かせる。
コックピットを開くと、アスナは降りてきた。
ユーフェミアはそれを見ると、嬉しそうにアスナの元へ飛び込んでくる。










「ユーフェミア殿下」
「……ごめんなさい、私」











怒った口調のアスナにユーフェミアは顔を下げた。
スザクはと言えば、驚いていた。
この人は、と見覚えがあるのだこの人に。









「アスナ、さん…?」
「枢木スザク、そういえば…自己紹介がまだだったな」









アスナはふっと笑う。













「皇族専任騎士、クラウン大公爵家当主アスナ=シュヘン=ガル=クラウンだ。元帥として軍部に属している」
「……っ、だ、大公爵…?」
「もっと補足するなら、皇帝陛下の姪でもある」















アスナの言葉にスザクは言葉を失った。
こんなすごい人、だったなんて。
スザクは動揺が隠せなかった。









「っっ、死ねぇえっ」








アスナに向かった銃口。
しかし、それに動揺することもなくアスナはただ立っていた。
スザクが「危ないっ!」と走り出そうとするが、それをアスナは手で制した。

バキッ…と音を立てて、割れる銃。
















「言っておくが、俺は生身でも貴様らごときには負けない」

















その手に握られた剣。
黒いその剣によって斬られた銃はあっさりと崩れてしまった。












「枢木スザク」
「は、はいっ」

「ユーフェミア殿下を助けてくれて、ありがとう」












その様子をスイはモニターから眺めていた。
まぁ、自分まで姿をさらす必要はない。
Clownは隠密機関。
姿をさらすのは極一部の方がいい。

第一、スザクの前に姿をさらすのはためらわれる。
普通の学生だと思っているし。













「さぁて、どうなるかなー」














ユーフェミア殿下を危険にさらしたって、
断罪されないかな、姉さん。
















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