If storse

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東京某所。
白銀家本邸、日本庭園内、離れ。
――――アスナは珍しく、この場所にいた。
東京とはいえ、使い勝手の悪い土地であるここはアスナの普段の活動拠点からはひどく離れている。
こんな場所にわざわざこなければならなかったわけはまぁ、どうでもいい。
アスナは洋館(本館)にある日本庭園内の離れで目を開けた。
こちらが本来の本邸の本館であったが、
何代か前に洋館を立て、そちらを本館としたのも時代の風潮だと聞く。
今となっては使われなくなったここは、
本邸へ訪れたアスナにとっての憩いの場であり、活動拠点であった。







「…風雅、風雅は、いるか」
「はい。どうかなさいましたか」







襖が開き、燕尾服に身を包んだ風雅が入ってくる。
アスナはそれを確認すると、布団から体を起き上がらせた。


「………何時だ、今」


携帯は、充電してバックに詰めたはず。
アスナはそうおもいながら目をこする。
「はぁ、」と風雅が目を見開きながら、アスナを見て懐中時計を確認する。







「現在8時40分ですが」







その瞬間にアスナは硬直した。
「マジで?」と言いたそうな目で風雅を見ていた。
アスナは顔を青ざめさせる。








「…そういえば、アスナ様。
本日から誠凛高校バスケ部は、山合宿…」
「あああああああああああっ!!!しまったぁあっ!!
ヤバい、完全に遅刻じゃねぇか!!
風雅、直接合宿所に向かわねぇと間にあわん!!急いで車を…!」
「お言葉ですが、車では…」
「間にあわんか?」
「確実に」









風雅は「お召し物はこちらに」と冷静にいいながら、静かに切り返す。
まぁ、どう頑張って間にあわないだろう。
確か合宿所到着予定は10時だったか。









「仕方ありません…最後の手段を使いましょう」
「…最後の手段?」


















――――同時刻、誠凛高校――――







「はーい!皆、揃ってるー?」
「すみません、アスナが来てません」








リコの点呼に、黒子が手を上げた。
え?とみんながその銀髪を探し、声をかけるがまったく返事がない。
そもそも、幼馴染の黒子が来てないと言っているのだから来ていないのだろう。








「…まったくもう。あいつはどこ行ったのよ。迷子?」
「さすがにそれはねぇだろ…毎日通ってる学校の体育館が集合だぞ?」








日向が呆れてため息をつく。
いくら、アスナが天性の迷子症だって言ったって。
そういわんばかりだ。
すると、黒子の携帯のバイブが鳴る。
携帯を開くと、アスナからメールが来ているようだった。










「アスナ、昨日仕事でどうしても実家に帰らなきゃならなかったみたいで実家から直接合宿所向かう、って今、メール来ました」
「仕事〜?アイツ、このために前日までの3日間休んでたのに?」
「どうしても外せない仕事だったみたいです。10時5分前にはつけると思うから、と」
「まぁ、そこまで言うなら大丈夫ね。
じゃ、私たちは先に合宿所に行くわよー!」
「おう!!」












全員でバスに乗り込んで、合宿所を目指す。














「風雅ぁーー!!」


風に巻かれて、私の大事な主人の声がとぎれとぎれにしか聞こえない。
しかし、まぁ、何を言いたいのかはおおよそ予測がつく。





「確かに俺は早くつきたい、5分前にはつきたいって言ったけどよー!!」
「はいー!?」
「だからって、だからって…!!」








「バイクで高速200q/時越えはねぇんじゃねぇぇえのおお!?」


















―――東京某所、山奥の合宿所。
自然豊かで、木々にあふれ、山道が多くあり、トレーニングには最適だろう。





「おー、中々きれいな合宿所じゃん」
「すげぇな」




バスから降りて口々に感想を言う。
綺麗な合宿所だ。
ここは、リコのお父さんがツテを使って格安でとってくれた合宿所だ。
さすがはスポーツトレーナー、こういったところに多くのツテがあるらしい。








「さて…やっぱりまだアスナは来てないわね」
「まぁ、仕方ないだろ。それに、まだ20分ぐらい時間あるし」
「…そうね。じゃ、私は中に行って手続き取ってくるから皆はちょっと待ってて!」








リコはそういって合宿所の中へ入っていった。
黒子は何度か携帯を確認しているようだ。



「んな、確認したって今、移動中じゃねぇの?」



火神が横から黒子にいった。
「まぁ、そうなんですけど」と黒子は携帯を閉じた。
にしても、急な仕事だ。
合宿のために会社にまで泊り込んで仕事していたはずなのに。
黒子はふぅとため息をついた。






「……アスナ不足で死にそうです」
「いや、たかだか3日だろ!?」
「火神君、考えてみてください。ボクは今まで、一日たりともアスナから離れたことないんですよ?
それを考えたら、3日はたかだかじゃありません。3日"も"!!!です」
(…アスナが絡むとホンット饒舌だよな…黒子)






そんなことを考えていると、
「あっれー!」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。









「黒子っちー!!!」
「黄瀬君?どうして、ここに?」
「いやー、うちもこの合宿所で合宿するんスよ!!」
「…ってことは」









走ってきた黄瀬の後ろからは、海常のメンバーがついてきている。
笠松が「誠凛?」と首をかしげている。






「どうも」
「あぁ、すごい偶然だな」
「そうッスね。海常もここで合宿なんて」






笠松と日向が話をする。
こうして、会うのは練習試合から…いや笠松と黄瀬だけはI・H予選ブロックを優勝した時の祝勝会で会ってる。










「あれ?黒子っち、アスナっちは?」
「仕事で、遅れてくるそうです」
「…仕事?アスナっちが合宿前に?」
「はい、どうしても外せない急な仕事だったみたいで」
「へー」









黄瀬は「なーんだ」と言外に漂わせていた。
何だかんでいって、キセキの世代にとってはアスナの存在は大きい。
そうこういっていると、再びあたりがにぎやかになりだした。











「なぜ、お前と同じ場所で合宿なのだよ!」
「そりゃ、こっちが聞きたいくれーだっての。あーダリィ…」

「緑間に、青峰?!」












火神は驚きを隠せずに声を上げた。
まぁ、それもそうだろう。
その後ろからは秀徳、桐皇のメンバーが見える。
偶然って恐ろしい。










「あ゛?なんで、オマエらまでここにいるんだよ!」
「ここで合宿するんです」
「………にぎやかすぎるのだよ」
「いいじゃないスか!楽しそうッス!」











キセキの世代5人のうち、3人まで揃ってしまった。
偶然って恐ろしい(2回目)
そして、緑間が何かに気づいたようにきょろきょろと見回す。







「おい、黒子。アスナはどうしたのだよ」
「あ゛?そういや、いねぇ」
「仕事らしいです。直接こっちへむかってるそうです」
「あー…誠凛いるなら、って思ったけど、アスナ来てねぇならなー…」







つまらない、そう言いたげな青峰の表情。
I・Hの予選惨敗させられた相手。
火神からすれば思うところがあるのだろう。
複雑な表情をしていた。
まぁ、闘志はむき出しだが。









「ホント、すげぇ偶然だな」









日向があたりを眺めながら、顔をひきつらせた。
キセキの世代を擁する学校がこうもそろうなんて早々ないだろう。
監督が仕組んだのか、いや違うな。
おそらく、本当にこれは偶然だろう。









「あ、アスナからメールです」
「なんだって?」
「"今、全力で気持ち悪いなう(´Д`;)"だそうです」
「………それだけ?」
「はい」










全員がピシリと固まった。
確かにアスナらしいといえば、アスナらしいが全然状況がつかめない。
「かはっ」と青峰は噴出した。
そして、喉の奥で笑う。










「ホント、あいつってわけわかんねー…」
「気持ち悪いって車酔いっスか?」
「おそらく寝坊して朝食を食べ忘れてるから、酔ったのだよ」
「そうでしょうね」










キセキたちはメールを見ながら笑う。

すると、再びにぎやかになる。











「あっれー…黒ちんに、ミドチンに、黄瀬ちんに、峰ちんじゃーん」
「「「紫原(っち)!!?」」」
「…何か、来る気がしてましたよ」











2mの巨躯に、どこか間延びした声。
キセキの世代のCだった紫原敦だ。
全員がびっくりしている。
そして、そんな紫原と一緒に来たのは秋田の陽泉高校の選手たちだ。











「タイガ!!」
「辰也!?お前も、ここに!?」
「偶然だな!」












ホント、偶然って恐ろしい(3回目)







「もうねぇよな」
「いや、これ以上はあったら問題っスよ」
「…そうなのだよ」
「あの人が来るのはちょっと…」
「んー…」








キセキたちが顔を突き合わせて相談する。
これ以上、偶然が起きると困る。
紫原はキョロキョロ見回す。










「アスちんは〜」
「これ、実は3回目なんですけど、仕事で遅れてきます」
「そーなのー?会いたかった…」
「合宿に来ますよ、じゃないとボクが死んでしまうので」

「いやいや、黒子っち、いっつも会ってるっスよね!?」
「会ってても、物足りないんです」
「オレ達はどうなるのだよ…!」
「テツ、オマエ…ちょっと代われや」
「嫌です」












軽く口論になるが、黒子はさらりとかわす。











「にぎやかだね」












――――その声が聞こえた瞬間に空気が凍りついた。
キセキの世代が全員一気に振り返る。















「やぁ、元気そうだね」
















キセキの世代主将―――赤司征十郎だった。
笑みを浮かべて、ゆっくりと近づいてくる。
京都の洛山にいるはずじゃ、という疑問も、
こうまでキセキの世代がそろってくると、どうでもよく感じられてくる。










「つーか、ここまでそろうと怖ぇな…」











日向がキセキの世代たちを眺めて呟いた。
ホント、これ偶然か?と聞きたくなる。
隣で伊月が冷や汗を流したのがわかった。
そりゃそうだ。
キセキの世代…
中学時代、対戦したことはないとはいえその実力は知れ渡っていた。
現に何人かのキセキの世代と戦って、
その実力の差に驚かされてばかりだ。











(ホント、こいつら全員に好かれるアスナって何者なんだよ…いったい)












今はここにいない、チームメイトの姿を思い出す。















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