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□出立
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冬の午後の日差しが盛り上がった土に恵みを与える様に降り注ぐ。この季節にしては遮る雲もなく、淡い青空が広がり、今日の気温は平年よりかなり暖かい。

ここオリエンタルタウンは未だ豊かに残る自然に囲まれていて、季節による変化が顕著に見られる。
その特性を活かし農業を営む家も少なくない。鏑木虎徹の母、安寿もその一人だ。
といっても規模は趣味の家庭菜園程であるが、今その菜園に立っているのは安寿ではなく

「お父さん、草むしり終わった?」
「おう、ちょうど今終わったところだ」

ずっと曲げていた腰をグッと伸ばし窮屈さから解放されると、虎徹は自分を呼んだ声の主の所に向かった。
縁側にいる鏑木楓は、頃合いを見計らった祖母が準備したものだろう、お茶と菓子を携えている。
そのまま菓子を掴もうと伸ばした手に、ピシャリと鋭い制止が入る。

「ダメだよ、ちゃんと手を洗ってから!」

こういう所は祖母の安寿に似てきたな、と虎徹は思った。




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