main

□名前
1ページ/2ページ

 今日こそ進展しなきゃ


 ジムの片隅で、鏡に映る自分の顔に、言い聞かせるように低く呟いて気合いを入れる


 マーベリックの件以来ヒーローを辞めていたアイツが今日帰ってくる

 久しぶりの再会なんだから出だしでビシッとさりげなく!言わなくちゃ


「あ、あー……久しぶりじゃない、タイガじゃなかった……こ、こて、虎徹」


 ……全然ダメダメじゃない!もっとこう自然に……


「なぁんだ。アンタが戻ってくるのって今日だったんだ。元気?こ、こ、こて、こてつ……さん?」


 ……あああん!もう!なんで大事な所でつまっちゃうんだろ

 今日こそ1歩前進するために、タイガーを名前で呼ぶって決めたじゃない


「……こ、虎徹」


 いきなり呼び捨てはマズイかな


「こ、虎徹さん」


 ……今までタイガー呼びだったのに『さん』付けもなぁ……


「か、鏑木さん……は何か違うのよね」

「…………虎徹」

「おう、何だカリーナ」

「きゃあああああああ!」

「ウオッ!こっちがビックリするじゃねーか」

「だ、だって!いきなり後ろから声かけられたら私……え?今……なんて言った?」

「あ?こっちがビックリするって言ったけど、それがどうした?」

「違うわよ!その前……私の事をカリーナって」

「あー、そりゃお前が俺の事を名前で呼ぶから、俺が来てたのに気づいていたのかと思ってよ」

「他には?何も?」

「何がだ?」


 ……私がずっと考えてたのって一体……


 脱力感でジムの床にヘタリ込む私を、相変わらずの髭面が不思議そうに見下ろしていた

 なんっにも変わらないんだから

 ハァ、と思わず苦笑する私の気持ちを知ってか知らずか……この髭め


「ああ、でも名前を呼ばれるのってより近くなったみたいで嬉しかったぜ」

「ば、ばっかじゃないの!」

「そうか?」

「そうよ!」


 私のグダグダな考えを一気に越えてしまうなんて、もう……

 ……よし、大丈夫。スッと深呼吸して彼の目を見て私は言った


「お帰りなさい、虎徹」






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ