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□熱
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正面に座るハデスが、傷口に丁寧かつ手際よく消毒液を塗っている。

時折ピンセットがガラス瓶に当たりカチャと響く音が、みのりを緊張させていく。

部屋に漂うオキシドールの臭いは、学校の中でもこの空間が特異な証みたいだと、手当てを受けながらみのりは思った。

――そう、きっと場所のせいなんだわ。この緊張も、病院にいる気分になる臭いのせいなのよ、うん

腕に触れる指の感覚、目の前で揺れる長めの白髪、チラチラと見える伏し目がちな表情に、みのりはいちいち高まってしまう自分への言い訳をひたすら心の中で繰り返した。

――これは違うのよ、確かにハデス先生は思いやりの深い人で、ちょっと見かけは怖いけど、話したらそんな事全然無くて、むしろ困ってしまうくらい優しい人で、生徒の事をよく考え見てる立派な先生よ
でも、私のこの気持ちは、あくまでも尊敬から来てるから何も緊張する必要は無くて、なんで手当て位でこんなに汗かいてるの私ったら!!

「……先生」

――ああ、きっとこれもこの臭いの影響なんだわ。普段と違う香りは気分を変えるって言うし、生徒達もいないから、二人きりだから落ち着かないのよ

「……き先生?」

――え?あ!ふた、二人きり!?よく考えたら今は授業中だからこの部屋に二人きりって、あああ私どうしたら落ち着いてまずは深呼吸しなくちゃ

「才崎先生?」

「はい!あ……な、何でしょう?」

「どこか具合悪いんじゃないですか?」

いつの間にか治療を終えたハデスが何度か名前を呼んだらしいが、思考が混乱していたみのりにハデスの言葉は届いていなかった。

そんなみのりの様子は傍目には具合が悪そうに見えたのだろう、心配気にハデスがみのりの顔を覗き込んできた。
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