Digimon.

空回りはしたけれど
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"石田ヤマト"



―――私の大嫌いな名前。





「ねぇヤマトくん!今日バンド観に行ってもいい?」



「あっずるいー!ヤマトくん、あたしもいいよね?」



私の隣の席にいる石田ヤマトの周りに女子は群れる。


それにイライラするのは言うまでもない。




「あ、ああ……とりあえずみんな席に着けよ」



「やった〜!じゃあまた放課後ねっ」




女子達はざわざわと自分の席に戻っていく。


はぁ、と隣の席から溜め息が聞こえた。



なんなの!?
それでモテた気分?



(ほんと嫌い!)


心の中でそう呟く。

なんで私がこんなにもヤマトを嫌うかと言うと、昔、小学生の時に私はヤマトが好きだった。


告白したけど………




「おいヤマトっ高橋がお前のこと好きだってよ!」



「ヒューモテモテだよほんとに!」



『やっ、やめて……』



偶然周りにいた男子に聞かれていて私は顔から火がふき出しそうだった。



「どーなんだよ?ヤマトー」



「っせーな」



『……え?』



「俺が高橋なんか好きになんねーよ!」






私はその光景と言葉を今でも覚えているけど。

もう過去の話し。
別にそんなに気にしてはない。






――――――――――――…‥






次の日、ヤマトは声が出なくなっていた。


原因はバンドの時にボーカルをやっているから、歌いすぎて喉がやられてしまったらしい。






「ヤマト大丈夫ー?」



パクパク、と口を動かして辛そうにしている。


「かわいそうヤマト…」


そんなことを女子達が言いながらどっかに行ってしまった。





そしていつも通り授業が始まる。




「それじゃー石田!ここ読んでくれ」



(うわっ先生声出なくなったって知らないんだ)




「…………」



必死にヤマトは口を動かして何かを訴えようとしている。


周りの人たちは困った顔をして先生とヤマトを見ている。



(誰か言ってあげればいいのに…)


うずうずして私は思わず口を開いた。



『あ、あの先生!ヤマト声が出なくって……私が読みます!』



とっさに出た言葉。

別にかばうとかじゃないけど、ただ放っておけなかった。



ただそれだけ。



授業が終わると肩をトントンと叩かれた。
それは隣の席のヤマトだった。



『なに……?』



"ありがとう"



口パクでそういっているのがわかった。



『いや、べつに……//』


少し照れてしまいヤマトの顔をチラッとみると、とても優しい顔をして私を見ていた。



キュン、と心の奥がうずく。


え、やだ私……。


ドキドキしてる心を隠して、すぐに教室を出て行った。





(私…ヤマトのことが……す……?)




いや!絶対ありえない!!



そう言い聞かせ頭をブンブンさせた。



不意に右手首が掴まれているのに気がついた。





『えっ…や、ヤマト……?』



なぜか私はヤマトに手首を掴まれ、パクパクと口を動かしている。



『どうしたの…?』



「……っ……」



『な、に…?私のこと嫌いなくせに……』



思わず本音が出てしまった。

でも、これは事実なことで…。私はヤマトに振られているんだ。




「………ーっ…!」



『ヤマト?』



(ヤマトが何をしたいのかわからない……)




「…っ…き………だ……」




『え……?』



「……っだ……す、……き…だ……!」



必死にひとつひとつ言うヤマトが愛おしくて、気づけば私はヤマトを抱きしめていた。




『うん……うん…!ありがと……私も、好き!』





―――――あのときの自分に教えてあげたい。


傷ついた分、きっと良い恋愛ができるって……!






空回りはしたけれど。
(やっぱりあなたが好きなの)







 

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