創作物
□夢のあと
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怖い夢を見た。
凛々蝶様がいなくなってしまった夢だ。すっと僕の手を離して、ひとりで暗闇の中に消えていった。
僕は従僕だから、「行かないでください」と言えなかった。
そんな夢を見たから、あなたの部屋のドアを開けるのが少し怖かった。
でも確かめないことには何も始まらないし、意を決して自分の部屋のドアを開けた。
・・・そこには思いもよらない人物が立っていた。
「わっ・・・!」
凛々蝶様が居た。
「凛々蝶様!?大丈夫ですか!?ドア、当たってませんか?」
「あ、ああ大丈夫だ。・・・御狐神君だよな?そこに、“いる”よな・・・?」
おそるおそる、というように尋ねてくる。
「?ええ。ここに僕はいますよ。・・・僕もお尋ねしたいのです。大変失礼ですが、凛々蝶様もそこにいらっしゃいますね?・・・触れた瞬間、消えてしまうようなことはないでしょうか?」
「・・・僕はここにいる。触れたって消えない・・・ほら」
そっと僕の手を握ってくれる。
そこにあったのは小さな、でも確かな温もり。
「怖い夢を見たんだ。・・・君が、御狐神君がいなくなってしまうんだ。僕を置いてどこかへ行ってしまうんだ。幾ら呼んでも立ち止まってくれなくて・・・怖かった。朝に目が覚めて夢とわかっても御狐神君が本当にどこかへ行ってしまった気がして・・・」
目を見開いた。同じような夢を見ていたのだ。
不謹慎かもしれないけれど、僕がいなくなってしまうのを必死に凛々蝶様が拒んでくれた、それを怖いと言ってくれたことが嬉しかった。命よりも大切な凛々蝶様を苦しませてしまったのは心苦しいけれど。
「僕も・・・僕も同じような夢を見ました。凛々蝶様がいなくなってしまうのです。とても、悲しかったです。怖かったです・・・。でも、ここにちゃんといらっしゃるんですね?」
「ああ・・・いる。・・・いる。ここに。」
凛々蝶様の小さな体を抱きしめる。
「ずっと・・・ずっと一緒に居たいです。図々しいことを言って申し訳ありません」
「・・・図々しくなんてない。・・・恋人同士がずっと一緒にいたいと思うのは普通だろう?」
「はい・・・」
ある朝の、大切な一コマ。