歪んだ愛に溺れて
□未来へ
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仕事帰りに、久々に池袋を歩いてみた。
シズちゃんに見つからないように人混みに紛れていると、真新しい来良の制服を着た子供を数人見かけた。
もうそんな季節か、と一年の速さを感じる。
公園の前で少し足を止め、花弁を落とし続けている桜を見上げた。
暖かくなってきたし、本格的に春が来たようだ。
視線を移し、公園で遊んでいる小さな子供を眺めていると、コートの中の携帯が震えた。
確認してみると、新羅からだった。
「……もしもし?」
応答しながら、公園のベンチに腰を降ろした。
『やあ臨也、今どこだい?』
新羅が、やたらと上機嫌な声を出した。
「どこって、今は外だけど」
『新宿?』
「いや、池袋」
なら良かった!、と新羅が電話の向こうで声を張り上げた。
耳から携帯を離し、暫くしてから再び耳にあてる。
「うるさいなあ、何かあったのか?」
『君に朗報だよ』
さっきと変わって落ち着いた声音で、新羅は一言一言を噛み締めるように言葉を発した。
『臨也……名前ちゃんが、帰ってきたよ』
「……え?」
身体中の力が抜け、地面から浮き上がったような錯覚がした。
『##NAME##ちゃんが戻ってきたんだ。たぶん、今は君達の実家にいると思うよ』
声が出なかった。
動いていないのに、脈が速くなっていく。
『行ってあげなよ、臨也』
「……ありがと、新羅」
それだけ絞り出し、電話を切る。
次の瞬間には、俺は走り出していた。
金縛りのように動かなかった体が嘘のように、速く走る。シズちゃんに追いかけられている時以上かもしれない。
ランナーズハイに陥ったように、まったく疲れを感じなかった。
早く名前に会いたくて、無我夢中で走った。
半年以上も待った。
初めて、孤独という意味を知った。
そして今、ようやく一人の時間が終わる。
家の前で足を止めると、今までの疲れが押し寄せてきた。
肩で息をしながら、門を開ける。
玄関の前に立ち、呼吸が落ち着くまで待った。
暫くしてから、額の汗を拭って扉に手を掛けた。鍵はかかっておらず、扉は難なく横に滑った。
視線の先に、一足のパンプスがあった。
また脈が速くなってきて、気持ちが高揚していく。
靴を脱いで、一歩一歩リビングに近付いていった。
「ほら、持ってみて」
リビングの中から聞こえた声に、心臓が跳ね上がった。
早く会いたいという気持ちを抑えながら、ドアノブを握る。
深く息を吸って吐き、意を決してドアノブを下に押した。
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