歪んだ愛に溺れて

□“愛してる”の対価
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臨也、今までありがとう。
小さい頃から我儘ばかり言って、迷惑ばかりかけてきた。謝らなきゃいけないことだらけなのに、こんな形で離れることを許してください。

新羅に初めて説教されて、やっと母親になるっていう意味が分かった。
本当は臨也といたい。でも、それじゃ同じことの繰返しで何も変わらない。
私は母親として、子供を守らなきゃいけない。それに、そろそろお兄ちゃん離れもしないといけないし。
だから、暫くの間一人になることにしました。

帰る時期はまだ決めてない。
もし、臨也がもう私のことをなんとも思っていなかったら、その時は新しい彼女を作ってもいい。
でも帰った時、まだ私のことを変わらずに好きでいてくれていたなら、その時は、あの日のように抱き締めてください。

臨也は私達が兄妹じゃなければよかったのにって思ってるかもしれないけど、私は臨也の妹でよかったと思ってる。世間的には受け入れられなくても、臨也を好きになって後悔したことは一度もないから。
この先はどうなるか分からないし、正直、お腹の子が大きくなった時に、なんて言えばいいかも分からない。
それでも私は、臨也と一緒にいたい。

長くなっちゃったけど、私がいない間も体調管理には気をつけてね。
波江さんばかりに頼らないで、自分でもちゃんと仕事するように。
これからが大変だけど、私も頑張るから。

大好きだよ、臨也






♂♀




紙の上に水滴が落ちて、初めて自分が泣いていることに気がついた。
久しぶりに見た名前の字が、涙で少し滲んでしまった。

四木さんに呼び出された後帰ってみると、名前の荷物が消えていて、代わりにこの手紙がデスクの上に置かれていた。
そこでやっと、四木さんが名前に頼まれて俺を呼び出したのだと解った。

名前は池袋からも新宿からも、姿を消した。

ようやく頭が冷えた。
俺は名前のことじゃなく、自分のことしか考えていなかった。
もっと俺が強ければ、ちゃんと守ってあげられたのに。

――名前……ごめん……。

気付けば後悔ばかりが浮かんできて、もう一度最初からやり直すことができたら、と不可能な考えを抱いた。
デスクに手紙を置くと同時に、充電ホルダーに挿していた携帯が鳴る。
なんとなく予想はしていたが、こんなに早くかかってくるとは思わなかった。

「何か用かい?……シズちゃん」

泣いていたと悟られないように、なるべくいつも通りを装う。

『……話がある』

「は?」

『明日、時間あるか?』

怒り狂って怒鳴られるかと思っていたが、シズちゃんはやけに冷静だった。しかもシズちゃんの方から言ってくるなんて、高校の時以来だ。

「午後なら、空いてるけど……」

『んじゃ、二時に新羅ん家な』

「ちょっと、勝手に決めないでよ」

『ゆっくり話ができんのは、そこぐらいだろーが』

確かに、と心の中で呟く。
新羅の家なら、危なくなっても仲裁役がいる。街に出て注目を浴びるよりはマシだ。

「分かった、行くよ。言っとくけど、いきなり殴りかかってくるとかナシね」

『んなことしねぇよ。……明日で最後にするからよ』

「ぇ……」

『じゃあな』

向こうからかけてきたくせに、一方的に切られた。
シズちゃんの言葉が耳に残っていて、待受画面に戻った携帯を見下ろす。

――最後って……。

その意味が何であったとしても、明日ですべてが終わるということだ。
シズちゃんも、シズちゃんなりの結論を出したのかもしれない。
もう大人なんだし、いつまでも喧嘩で決着をつけるような年齢じゃない。
名前だって、きっとそう望んでいる筈だ。

取り敢えず、明日はナイフを置いて行こう。


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